研究課題/領域番号 |
18J23379
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松岡 和 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 縮環π拡張反応 / 脱芳香族化反応 / 縮環芳香族化合物 / ナノグラフェン / 遷移金属触媒反応 / 多様性指向型合成 |
研究実績の概要 |
多環芳香族炭化水素(PAH)やπ拡張ヘテロ芳香環、ナノグラフェンに代表される縮環芳香族化合物は、有機電子材料に頻繁に用いられる重要な化合物群である。これらの化合物は一般的に、前駆体であるポリアリール化合物を調製し、続く脱水素環化反応により縮環芳香環を構築する多段階合成法によって合成される。本手法は、ナノグラフェンやグラフェンナノリボンなど様々な縮環芳香族化合物の精密合成を実現したが、材料科学の観点からは解決すべき課題も抱えている。すなわち、縮環芳香族化合物の網羅的な合成・評価を必要とする材料化学分野において、各々の目的物に対して都度適した合成戦略を考案する必要がある点や、多段階の合成を必要とする点は、重大な欠点であった。 本研究員は上記の問題を解決するため、連続的な縮環π拡張反応(APEX反応) により短工程で多様な縮環芳香族化合物を合成するテンプレート成長法の開発に取り組んだ。本反応は従来の合成法と異なり、原料の事前官能基化やポリアリール化合物の調製を必要としないため、短工程で縮環芳香族化合物を得ることができる。またテンプレートの有するK領域やM領域、bay領域とよばれる周辺構造を識別し、それぞれ選択的に縮環π拡張することで、単一の前駆体から複数の縮環芳香族化合物の合成が可能である。さらに、それぞれの生成物に対して繰り返しAPEX反応を行うことで、指数関数的に縮環芳香族化合物の合成が達成できる。今年度、本研究員は、これまでに独自に開発したK領域選択的APEX反応(K-APEX)とM領域選択的APEX反応(M-APEX)を組み合わせることでテンプレート成長法によるナノグラフェンの合成を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究員は今年度、脱芳香族化を足掛かりとする新たなAPEX反応を開発した。本研究成果はこれまで達成不可能であったM領域におけるAPEX反応を可能にした点で極めて意義深い。開発したM領域選択的APEX反応により多数の未踏ナノグラフェンの合成に成功した。さらに本研究を通じて得られた知見は、未開発のL領域やbeach領域でのAPEX反応へと応用可能であるため、今後の研究における大きな指針になると考えられる。 また、本研究員は上記の研究成果に加えて、縮環芳香族化合物の多様性指向型合成法の開発も行った。本手法は、市販の縮環芳香族化合物に対してこれまでに開発したAPEX反応を連続的に用いることで、大きな縮環芳香族化合物を合成する手法である。出発物質やπ拡張剤の構造に加え、APEX反応の順番を入れ替えることで多様なナノグラフェンを合成可能である。本手法は従来の標的指向型合成法の有する欠点を補う画期的な合成法であるといえる。 以上のように、本研究員は新規APEX反応の開発に加え、研究課題設定時には予期しなかった縮環芳香族化合物の多様性指向型合成法の開発に成功した。したがって、本研究は当初の計画以上に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、今年度達成したM領域選択的APEX反応において得られた知見をもとに、未開発である、L領域でのAPEX反応を開発する。その後、開発した全てのAPEX反応を駆使してナノグラフェンの多様性指向型合成を実施し、未踏ナノカーボンライブラリを構築する。さらに得られたライブラリをもとに、ナノグラフェンの構造・物性相関の解明や生物学的応用にも着手する予定である。
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