研究課題
キチンは、N -アセチル-D-グルコサミン (GlcNAc) の重合体で、昆虫、甲殻類、真菌類などの多様な生物の主要構成成分である。昆虫をはじめとするキチン含有生物の飼料化が提案されているが、キチンの難消化性への懸念から、実用化には至っていない。申請者はこれまでに、キチン分解酵素である酸性キチナーゼ(Chia)が、ニワトリとブタの胃で大量に発現し、胃と腸の条件でキチンを分解すること、また、食性が動物の胃におけるChiaの発現レベルとキチンの分解性を決めることを明らかにした (Tabata et al., 2017; Tabata et al., 2017; Tabata et al., 2018)。本年度は、家畜のみならず、霊長類を含めた幅広い動物・食性種における Chia を解析した。イヌ(肉食性動物)の Chia のキチナーゼ活性低下原因の解明のため、活性の高いマウス(雑食性動物)の Chia とのキメラ体を作製、解析することで、不活性化の要因となる領域を特定した (Tabata et al., 論文準備中)。また、非ヒト霊長類のコモンマーモセット(食虫性動物)の CHIA の転写レベルと酵素活性を解析し、CHIA がコモンマーモセットの胃で大量に発現し、消化器系条件下でキチンを分解することを明らかにした (Tabata et al., 2019)。さらに、家畜であるブタの胃から Chia 酵素を精製し (Tabata et al., 2018)、ブタの体内で、キチンが Chia によって分解され、健康に良いとされているキトオリゴ糖が生成することを明らかにした (Tabata et al., 投稿中)。以上の結果は、Chia の消化酵素としての生理的役割の理解を深め、キチン含有生物の飼料化を推進する基礎的データとなり得る。
1: 当初の計画以上に進展している
・当初の計画どおり、マウス Chia 配列の一部を導入することで、イヌ Chia を活性化した。よって、イヌ Chia 不活性化の要因となる領域、アミノ酸を絞り込むことができた。・当初の計画には無かったが、非ヒト霊長類であるコモンマーモセットの CHIA が、胃で多量に発現し、体内でキチンを分解できることを明らかにした。この研究成果は、国際学術誌 Scientific Reports にて報告した。・家畜であるブタの体内で、脱アセチル化度の高いキチンが Chia によって分解され、キトオリゴ糖を生成することを示した。本研究内容も、当初の計画には無かったが、論文にまとめ、現在、国際学術誌に投稿中である。
①イヌおよびウシ(肉食、草食性動物)の Chia のキチナーゼ活性低下の原因の解明昨年度は、キチナーゼ活性が高いマウスと、活性の低いイヌの Chia を構成する、触媒ドメインと、キチン結合ドメイン上の配列をエクソン単位で入れ替えた、キメラ体 Chia を 6 種類構築した。マウスとイヌの Wild-type 2 種類を含む、8 種のタンパク質を大腸菌で発現させ、キチナーゼ活性を測定し、エクソン 6-7 がコードする領域に、イヌ Chia の活性低下の要因があった。今後は、この結果に基づき、イヌ Chia の不活性化領域のさらなる絞り込みに取り組む。その後、イヌ Chia 不活性化の要因となるアミノ酸を同定し、原因アミノ酸の進化の過程における保存性を、様々な食性の動物の Chia と比較し、肉食性動物における Chia の不活性化の原因とその必然性を明らかにする。マウスとウシ Chia 間のキメラタンパク質 6 種はすでに作製済みである。同様に、これらのキメラタンパク質の解析を行い、活性低下領域の特定に取り組む。②胃における Chia の活性化機構に関する研究申請者はすでに、マウス Chia が、pH 2.0 において、Cl 濃度依存的に活性化する結果を得た。他方、ニワトリではほとんど活性化しない。本年度は、pH 7.0 における Chia の Cl によるマウス、ニワトリ Chia の活性化の有無を検討し、Chia の Cl による活性化が、プロトンおよび Cl イオンが豊富な胃の環境に特有の現象かどうかを明らかにする。また、これらの実験を、低分子量発色基質に加えて、高分子量キチン基質でも検討する。さらに、多様な食性・動物種(ブタ、ウシ、イヌ、コモンマーモセット)の Chia の Cl による活性化を検討する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Scientific Reports
巻: 9 ページ: 159
10.1038/s41598-018-36477-y
International Journal of Molecular Sciences
巻: 19 ページ: 362
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