研究実績の概要 |
キチンは、N -アセチル-D-グルコサミンの重合体で、昆虫、甲殻類、真菌類などの多様な生物の主要な構成成分である。昆虫などのキチン含有生物の家畜の飼料化が提案されているが、キチンの難消化性への懸念から、実用化には至っていない。これまでに、酸性キチナーゼ(Chia)が、雑食性動物の胃で大量に発現し、胃と腸の条件でキチンを分解すること、また、肉食性、草食性動物における Chia のキチン分解性の低下を明らかにした。太古のほ乳類祖先は、小型で食虫性であったが、恐竜の絶滅後、ほ乳類の食性は多様化したと考えられている。そこで、本研究では食性の変化に伴う Chia の変化を明らかにすることを目指した。 本年度は、肉食性動物の Chia のキチナーゼ活性の活性低下の原因解明とその分子進化の解明に取り組んだ。イヌ(肉食性動物)の Chia のキチナーゼ活性低下原因の解明のため、活性の高いマウス(雑食性動物)の Chia との間でキメラ体やさまざまな変異体を作製、解析した。その結果、イヌ Chia の不活性化に関与する 2 アミノ酸を特定した。さらに、主に肉食性動物が属している、食肉目 40 種の動物のChia遺伝子を塩基配列レベルで解析した。その結果、イヌで同定した 2 アミノ酸は、イヌ科でのみ特異的に保存され、他の大多数の肉食性動物の Chia は偽遺伝子化していた。イヌ科以外の食肉目動物で、完全長 Chia を保持していたのは、現代でも昆虫を食餌とするミーアキャットとスカンクのみであった。さらに、ミーアキャット、スカンク Chia は、イヌよりも高いキチナーゼ活性を発現した。以上の結果から、食虫性の祖先から進化した現代の肉食性動物が、キチンを含まない食餌に適応したことで、Chia の構造と酵素活性に大きな変化を生じたことを明らかにした(Tabata et al., 論文投稿中)。
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