研究課題
【中深層性頭足類を利用する鯨類の食性研究】2019年度夏に鹿児島県及び北海道でそれぞれ漂着したマッコウクジラ(オス)2個体の胃内容物を分析した結果,2個体とも大型になる深海性の頭足類を摂餌していたがその種類は異なっていた。2個体の餌生物の違いは深海性頭足類の分布の違いを反映していると考えられる。その他,アカボウクジラ,オウギハクジラ,ハッブスオウギハクジラの胃内容物を分析した結果,それぞれが中深層性頭足類を多く利用しており,3種の中では,ハッブスオウギハクジラが利用する餌生物の分布深度が,最も深いことが明らかになった。また,アカボウクジラ及びオウギハクジラの胃からは多くの人間由来のゴミが出現した。これらの種は漂着することも珍しく,生態も不明な点が多いことから,本研究により明らかになった餌生物情報を今後積極的に発表する。【セミクジラヒゲ板の分析】2018年7月に北海道根室市で漂着したセミクジラ(体長約17m,メス)から採取したヒゲ板(約2m)を用いて,個体の回遊経路(どこで餌を食べていたか)を明らかにするために根本から先端に向けて放射性炭素同位体(Δ14C)の分析を行った。セミクジラは北太平洋に広く分布するヒゲクジラであり,IUCNレッドリストにおいて絶滅危惧(EN)に指定されているが,日本近海における回遊ルートなどの生態情報は乏しい。漂着した個体のヒゲ板を採取し,分析に用いた。Δ14Cは一貫して親潮湧昇域周辺の低い値を示した。本研究では,2mあるヒゲ板のうち先端から80㎝までしか分析できていないが,この期間において本個体は,主に北太平洋北部のみを利用していたと考えられ,日本周辺海域では,北海道までしか来遊していないことが明らかになった。2年度は各種の胃内容物分析及びヒゲ板の同位体比分析による回遊ルートの推定を積極的に行った。
2: おおむね順調に進展している
日本周辺海域においてストランディングした鯨類の胃内容物分析及び同位体比分析を積極的に進めている。2年度は特に中深層性の頭足類を利用する鯨類の胃内容物分析に注力した。これらの種は生態情報も乏しく,本研究により明らかになった餌生物情報は重要であると考える。また,日本国内におけるストランディング個体の解剖調査も積極的に行うことで,必要な標本を採材することができた。同位体比分析では,安定同位体比分析の進捗はあまりよくないが,放射性炭素同位体比分析は順調に行えている。2年度は世界的にも貴重なセミクジラの標本を用いて本種の回遊経路の推定を試みた。分析の結果はスペインで開催された世界海棲哺乳類学会で発表した。
最終年度は前年度までと同様に日本国内における鯨類ストランディング調査及び調査個体の胃内容物分析,同位体比分析を行うとともに,これまで得られた各種の食性情報の論文化を進める。また,最終的には,捕食者の特徴と被食者の特徴をモデル化することで鯨類がどのように餌生物を選択しているかを明らかにすることを目指したい。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件)
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