研究課題/領域番号 |
18J40020
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
クロフツ 尚子 秋田県立大学, 生物資源科学部, 特別研究員(RPD) (30583330)
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研究期間 (年度) |
2018-07-01 – 2022-03-31
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キーワード | イネ / アミロース / アミロペクチン / 糯 / 糊化温度 / 物性 |
研究実績の概要 |
アミロース含量はGranule-bound starch synthase I (GBSSI) の発現量と直結しており、インディカ米はGBSSIの発現量が高く(GBSSI) 高アミロース(約25%)である。ジャポニカ米はGBSSIの発現が低く(GBSSIL)低アミロース(約16%)であり、モチ米はGBSSIの欠損により(gbss1)アミロースを含まない。 一方、アミロペクチンの分岐鎖の長短は糊化温度に直結し、主にStarch synthase IIa(SSIIa)が制御している。インディカ米は高活性型(SSIIa)のSSIIaを持つためアミロペクチンの分岐鎖が長く糊化温度が高く、ジャポニカ米のSSIIaは低活性型(SSIIaL)であるためアミロペクチンの分岐鎖が短く糊化温度が低い。昨年度の研究成果より、SSIIaが欠失したジャポニカ米は分岐差がさらに短くなり糊化温度も低下することが明らかになっている。 本研究では、SSIIaとGBSSIの強弱や有無が異なる組合せの新規イネ変異体をもちいて、澱粉生合成関連酵素の酵素間相互作用と澱粉構造や物性の関係を明確にすることを最終目標として、(1)登熟種子から抽出した可溶性タンパク質に含まれる澱粉生合成関連酵素複合体の分子量や構成変化明らかにし、(2)完熟種子のアミロペクチンの分岐構造およびアミロース含量の測定、(3)澱粉の物性測定を行う。 平成31年度は、SSIIaとGBSSIの強弱や有無が物性に与える影響を明らかにすることを目的として、GBSSIが欠損した糯米かつSSIIaが高活性型・低活性型のイネ系統 (gbss1/SSIIa, gbss1/SSIIaL)を用いて、餅の粘弾性や硬化速度を測定するための条件(餅を作る際の加水量、冷却時間、粘弾性の測定条件)を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SSIIaとGBSSIの強弱や有無が物性に与える影響を明らかにすることを目的として、GBSSIが欠損した糯米かつSSIIaが高活性型・低活性型のイネ系統 (gbss1/SSIIa, gbss1/SSIIaL) を用いて、餅の粘弾性や硬化速度を測定するための条件(餅を作る際の加水量、冷却時間、粘弾性の測定条件)を確立することができたため。 上記2系統の餅の「応力」や「伸び」は加水量によっても違いが出たが、両方の系統を同じ条件で測定するためには、加水量が少なすぎても多すぎても装置の測定範囲に収まらず、最終的に加水量は澱粉重量の1.5倍量が最適であることが明らかになった。 また、餅を冷却し「応力」の経時変化を測定したところ、gbss1/SSIIaLで作成した餅は72時間冷却後も「応力」が約1 Nと軟らかさを持続した。一方、gbss1/SSIIaで作成した餅は、冷却後数時間で徐々に硬さが増し、6時間後は約3N、24時間は約100 N、48時間後で約200 Nと頭打ちとなり、冷却後の「応力」が飛躍的に増し硬い餅となった。冷却後の餅の「伸び」を測定したところ、gbss1/SSIIaLで作成した餅は72時間冷却した後も冷却直後と同様に約40cm伸びた。一方、gbss1/SSIIaで作成した餅は、作成直後は約50 cm伸びたものの、冷却6時間後は約30cmと伸びが悪くなり、それ以降は全く伸びなかった。以上のことから、餅の硬化性や粘弾性にはSSIIaの活性の強弱が大きく影響することが明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、新たにSSIIaを完全に欠損した糯系統 (gbss1/ss2a) の単離に成功した。来年度は種子を増産し、澱粉構造や糊化温度を明確にする。また、増産した種子を用いて餅を作成し、物性測定を行う。SSIIa活性が欠失したgbss1/ss2aの餅は、SSIIaが低活性型であるgbss1/SSIIaLの餅よりも軟らかくなるか、冷却しても硬くなりにくいか、伸びがよいか、透明であるかといった点を明確にする。
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