研究課題/領域番号 |
18J40044
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
尾間 由佳子 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(RPD) (20443997)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | アクチンファミリータンパク質 / DNA損傷修復 / 姉妹染色分体間接着 |
研究実績の概要 |
本年度はアクチンファミリーを含むクロマチン構造変換複合体と細胞核構造タンパク質との相互作用の解析により、損傷DNAの空間配置決定のメカニズムを明らかにすることを目的とした。正確なDNA損傷修復の機構として、S期からG2期における相同組換え修復が挙げられるが、その際、損傷誘導的に姉妹染色分体間が接着(コヒージョン)することが知られている。そこで、クロマチン構造変換複合体の損傷誘導的コヒージョンへの関与について着目した。解析には、特定の単一部位に誘導的に二本鎖切断を起こすことのできる出芽酵母株を用い、損傷誘導的コヒージョンを切断領域近傍のGFPのスポット数で判別した。これによりDNA損傷部位の核膜周辺への移行および結合に必要なクロマチン構造変換複合体である、SWR1複合体およびINO80複合体の機能欠損株の損傷誘導的なコヒージョンについて解析したところ、SWR1複合体のみが関与することを明らかにした。このことから、両複合体に含まれるアクチンファミリーの構成の違いにより損傷誘導的コヒージョンへの関与の差が生じる可能性が示唆された。次にコヒージョンに必要なコヒーシン複合体に対するクロマチン免疫沈降行ったところ、SWR1複合体が関与する損傷部位の核膜周辺への結合は、コヒーシン複合体の損傷部位への結合ではなく、その後のコヒージョン確立に必要であることが示唆された。損傷誘導的コヒージョンの確立には、コヒーシンタンパク質の損傷誘導的なSUMO化修飾が必要であるが、SWR1複合体機能欠損株においてはその割合が低下していた。これらの結果から、SWR1複合体は、DNA損傷部位を核膜孔複合体へ結合させることで、核膜孔複合体と間接的に結合したSUMO化酵素Mms21による損傷誘導的なコヒーシンタンパク質のSUMO化修飾を促進し、正確な組換え修復に寄与していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当研究室ではこれまで、出芽酵母をモデル系として、細胞核内アクチンファミリーのDNA損傷修復への関与について解析を行ってきた。アクチンファミリーは、損傷修復に関連する特徴的なクロマチン構造形成に関与することに加えて、核内での損傷DNAの空間配置にも関与することが示唆されている。本研究員は、これらの核内アクチンファミリーの特徴を分子レベルで解明するために、複数のアプローチを行っている。その結果、細胞周期S期からG2期での相同組換え修復における損傷誘導的姉妹染色分体間の接着におけるアクチンファミリーの機能の一部を明らかにした。この研究成果については、国内学会で4回(うち1回は国際学会)の報告を行った。以上の研究成果や研究活動から、本研究課題について、「期待以上の研究の進展があった」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
クロマチン構造変換複合体中のアクチンファミリーと相互作用する核構造タンパク質の免疫沈降法による同定を継続して行う。出芽酵母では、HOエンドヌクレアーゼの発現誘導により、ゲノム上の特定部位にDNA損傷を誘導できる系を用い、同定した核構造タンパク質がDNA損傷部位に結合するかどうかを、クロマチン免疫沈降法(ChIP法)により解析する。また、ヒト培養細胞においてもDSB領域でのアクチンファミリーと核構造タンパク質との相互作用に解析を行うために、特定の位置にDNA二本鎖切断(DSB)を誘導する細胞株を樹立する。一般に解析に用いられている株化培養細胞では、チェックポイント機構やDNA損傷修復機構の変化によって、通常の細胞よりも多くのDNA損傷がすでに存在しており、これを回避する必要がある。そこで、ヒト初代皮膚線維芽細胞(Human Dermal Fibrobalsts, neonatal; HDFn)を利用する。ヒト皮膚線維芽細胞HDFn細胞に対し、セントロメア近傍のヘテロクロマチン領域に対するガイドRNAを設計し、Cas9ヌクレアーゼとともに発現させることで、特定の位置にDNA二本鎖切断(DSB)を誘導する細胞株を樹立する。樹立した細胞または特定部位にDSBを誘導できる出芽酵母からクロマチン画分を調製し、アクチンファミリーと相互作用する核構造タンパク質に対する抗体を用いてクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)を行う。それにより目的の核構造タンパク質が結合するクロマチン領域を同定し、DSB誘導前後で変化するか解析する。
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