研究課題/領域番号 |
18J40058
|
研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
岩井 玲奈 国立遺伝学研究所, 総合遺伝研究系, 特別研究員(RPD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | Retinal ganglion cell / Neuronal Birthdate / axon projection |
研究実績の概要 |
本研究では、マウスシステムを用いて視覚神経細胞を誕生日に応じてラベルし、視覚神経回路の形成過程に神経細胞の誕生するタイミングに応じたメカニズムがあるかを解析する。 網膜から脳へ至る視覚神経回路は、細胞の性質ごとに分かれた精密な並列回路である。このような回路が形成される過程において、神経細胞が誕生するタイミングに応じたメカニズムがあるのではないかと予測している。これまで神経細胞の誕生日に応じて神経回路を分離する有用なツールがなくこの予測を検証できなかったが、所属研究室で開発した遺伝子改変マウスシステム(“誕生日タグづけマウス”)により可能になった。 当該年度は、複数ある誕生日タグづけマウスから適切なものを選定し、網膜の神経細胞の細胞体と神経軸索の投射経路の両方をラベルすることに成功した。ラベルの解析の結果、早生まれ細胞の神経軸索は、遅生まれ細胞の神経軸索と異なる領域に分布することを見出した。さらに、誕生日ごとにラベルされた網膜の神経細胞がどのような性質をもつのかを調べるために、分子マーカー10種を検討し、動作確認ができた7種を用いて、誕生日ごとの細胞の性質を調べた。誕生日ごとの細胞は特定の分子マーカーと一対一対応はしていなかった。このことから、誕生日ごとの細胞は、今回検討できていない種類の細胞であるか、または全く新しい種類の細胞である可能性が考えられた。 本研究は従来の方法とは違う細胞の誕生日という手法で視覚回路を解析しており、明らかになっていない回路を見出す可能性は大きい。近年、緑内障や軸索障害など細胞死が原因となる眼科疾患のモデルにおいて、網膜の細胞は種類ごとに生存能力が異なることが分かってきた。細胞の種類とその回路の情報を新たに追加できる本研究は、眼科疾患の病態理解や治療へ向けた再生網膜の研究分野の進展に大きく貢献できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
網膜神経節細胞の誕生日ごとの細胞の分類について当初の計画通り順調に進展した。機能的サブタイプの同定方法として用いられている分子マーカーによる解析はデータ取得および定量解析に至っている。また細胞形態による解析は、新たに入手したマウスラインの動作確認が完了した。誕生日タグ付けマウスとの交配を進めており、準備が整い次第、形態の解析に進む。網膜神経節細胞の誕生日による軸索の投射パターンの解析について、誕生日ごとの回路の存在を示唆する予備的結果を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
網膜神経節細胞の誕生日による軸索の投射パターンの解析について、次の段階として、眼球からの神経軸索に限定した誕生日タグ付けラベルが必要である。当初の予測に反し、用意していたマウスと遺伝子導入用のウイルスベクターでは目的遺伝子が発現できないことがわかった。新たなマウスラインと遺伝子導入のウイルスベクターの組み合わせを用いて、システムの再作成を行う。
|