本研究では、バクテリアRNAがマウスCD4+ T細胞の増殖を直接抑制することで、大腸炎症を抑制するかどうかを検証することを目的としている。今年度は、強い抑制活性が認められた乳酸菌N2株のRNA画分について1) 次世代シーケンス解析により含まれるRNAの配列を解析するとともに、含まれるRNAについてT細胞増殖抑制活性を調べた。また、2) 大腸炎症モデルに対するN2株の投与効果を検討した。 1) N2株をガラスビーズで破砕後、RNase Aで処理した。陰イオン交換カラムにRNAを吸着後、溶離液のKCl濃度を低、中、高と段階的に上げることで分画を行った。低KCl濃度溶出画分に短鎖RNAが含まれること、また強い抑制活性があることを確認後、この画分に含まれるRNAの配列を次世代シーケンスにより調べた。含量の多いTop100 の配列について、マルチプルアライメントを行った。その結果、Top100のRNAは、16種類の配列系統にわけられることがわかった。続いて、16種類の系統配列のうち含有量が多いものをその配列を代表するものとして選抜し、それぞれ合成し、CD4+ T細胞の増殖に与える影響を調べた。その結果、16種のRNA配列全てに抑制活性が認められること、配列により抑制活性の強さが異なることがわかった。以上から、N2株由来の短鎖RNAに抑制活性があること、その配列によって抑制活性が異なることが明らかになった。 2) N2株の投与がマウス大腸炎症に与える影響を調べるため、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎モデルマウスを用いた。N2株生菌体を0.1%含有するMF粉末飼料をマウスに自由摂取させた。摂取開始から1週間後、飲料水を3%DSS水に交換した。5日後に飲料水を元に戻し、2日後に体重、下痢スコア、血便スコアを測定した。その結果、N2株の摂取により、対照群と比較して7日目の体重が有意に低下すること、また、血便スコアが悪化することがわかった。以上から、N2株はむしろ大腸炎症を悪化させることが示唆された。
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