昨年度までに抑制活性の強いRNAを持つ乳酸菌としてLactobacillus fermentum N2 (N2)株を選抜し、N2株由来の短鎖RNAにT細胞増殖抑制活性があること、この抑制作用が配列によって異なることを明らかにしてきた。また、大腸炎症モデルマウスに対してN2株菌体の投与効果を検討し、菌体の摂取が予想外に大腸炎症を悪化させることを明らかにしている。本年度は、①短鎖RNAの配列と抑制活性の関係について検討を行うとともに、②N2株由来RNA自体の大腸炎症モデルに対する投与効果を評価した。 ①同じ塩基からなるポリマーを用いて抑制活性を調べたところ、poly(A)にのみ増殖抑制活性が認められた。poly(A)は鎖長に関係なく抑制活性が認められ、最小単位であるアデニル酸(AMP)も抑制活性を示した。AMPはCD73によりアデノシンに変換され、アデノシン受容体A2Aを介して抑制作用を示すことが報告されている。そこで、CD73およびアデノシン受容体の阻害剤を使用し、T細胞増殖抑制活性に対する影響について検討した。その結果、これらの阻害剤の添加によりAMPだけでなくN2株由来RNAのT細胞増殖抑制作用も阻害されることが明らかになった。以上から、N2株RNAによるT細胞増殖抑制作用にはCD73およびアデノシン受容体A2Aが関与している可能性が示唆された。 ②マウスに水またはN2株由来RNAを毎日投与した。1週間後、デキストラン硫酸ナトリウム水溶液を自由摂取させることで大腸炎症を誘導した。マウスの体重、糞便スコア、血便スコア、大腸長を調べた結果、N2株RNAの投与はいずれの項目においても有意な効果を示さなかった。このことから、今回選抜した乳酸菌RNAは大腸炎症の予防・治療には期待できないと考えられた。今後は大腸炎症とは別の免疫疾患に対しての効果を検討していくことを考えている。
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