研究実績の概要 |
Streptococcus suisは人獣共通感染症を引き起こすが、莢膜以外に病原因子として確定しているものはない。また、分類再検討が行われる以前までは S. suis とされていた Streptococcus ruminantium は牛の心内膜炎などから分離されるが、同じくS. suisから再分類されたStreptococcus parasuisは病豚からの検出例は少ない。そこで、S. suis と病原性や毒力が異なると推測される近縁菌種と比較解析を行い S. suis の新規病原因子探索を試みた。 令和2年度は、これまで報告されていなかった S. parasuisの全ゲノム配列を明らかにし、データベ ース上に公開されている S. suis と S. ruminantium の全ゲノム配列を合わせて比較ゲノム解析を実施した。 3菌種が保有する遺伝子として8,103種類の遺伝子がみつかり、そのうち740種類は3菌種全株に共通して保存されていた。S. suisとS. ruminantiumにはアスコルビン酸代謝経路に関与する遺伝子があるのに対して、S. parasuis には保存されていなかった。一方で、ヒスチジンやトリプトファンなどのアミノ酸合成遺伝子は、S. parasuis に保存されていたが、S. suis と S. ruminantiumには保存されていなかった。また、毒力が強いS. suis 株と S. ruiminantium 2株には宿主のグリコサミノグリカンを分解するヒアルロニダーゼとヘパリナーゼを含む遺伝子群が保存されていたが、S. parasuisには保存されていなかった。これらの解析結果から、S. suis とS. ruminantiumは宿主で生存するように適応進化し、S. parasuisは環境中でも生存できるよう適応進 化したことが示唆された。
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