研究課題/領域番号 |
18J40091
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
楢崎 友子 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | アカウミガメ / 代謝速度 / 経験水温 / エネルギー収支 / バイオロギング |
研究実績の概要 |
今年度は三陸沿岸域に来遊した混獲個体を対象に、まず活動強度と代謝速度の測定(飼育実験)を実施した。供試個体を密閉した空間でのみ息継ぎ可能な実験水槽に入れ、自然環境下で経験し得る水温帯(15℃-25℃)で休息時および活動時の酸素消費速度を計測し、活動強度とエネルギー消費量との関係を示す経験式を得た。飼育実験を実施した個体のうち2個体に3Dロガーおよびビデオロガーを装着して放流し、自然環境下における活動データとクラゲ類を摂餌する行動データを取得した。現在はエネルギー消費量と獲得量の観点でデータ解析を行なっている。 また広範囲にわたる回遊を行うアカウミガメの利用海域、潜水行動、経験水温などを長期的に追跡するため、今年度も受入研究室と共同で5個体に人口衛星対応型発信機を装着し、岩手県沖より放流した。受入研究室がこれまで取得したデータも合わせ、計54個体分の衛星追跡データを解析したところ、追跡個体は日本沿岸域から太平洋北西部を広く回遊していた。外温動物であるアカウミガメの代謝速度は水温に大きく影響を受け、水温が15℃を下回る冬には著しく不活発になることが地中海や大西洋の個体群において報告されているが、本研究の追跡個体は冬でも比較的温暖な海域(表層の平均水温が20℃以上)を利用し、年間を通して活発な潜水行動を行なっていた。ウミガメはしばしば水温躍層よりも深い深度へ潜水し、ときには0℃近い程水温を経験していることが明らかになった。外温動物であるアカウミガメのエネルギー消費量を推定するためには、海表面水温のみならず、滞在深度の水温情報が重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は予定していた通り、飼育下における代謝速度計測実験と、自然環境下における摂餌行動と活動データを取得するための野外放流実験を実施した。野外放流実験データの個体数はまだ少ないものの、エネルギー収支に着目した行動解析を行うために不可欠なデータは揃いつつある。衛星追跡調査については、順調に回遊経路と潜水行動データを取得している。潜水深度を考慮した利用海域の水温特性の解析などを進めており、おおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる次年度は、取得データをとりまとめて解析し、アカウミガメの摂餌生態をエネルギー収支の観点で考察することを目指す。サンプル数が少ない飼育下における代謝速度計測実験と野外放流実験については、体系的なウミガメ調査の体制が整っている三陸沿岸域にて可能な限り実験を行い、サンプル数を追加する。人工衛星対応型発信機を用いた長期行動追跡データについては、すでに十分なデータセットが揃っている。引き続き、潜水深度に着目した三次元的な利用海域の推定とその環境特性に関する解析を進めるとともに、漁業活動との時空間的なオーバーラップについても検討する予定である。
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