研究課題/領域番号 |
18J40102
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
串間(福田) 真子 九州大学, 農学研究院, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | イネ種子貯蔵タンパク質 / グルテリン / 小胞輸送 / GOT1B / 高水分吸収性 / 1粒炊飯法 / 低カロリー米 |
研究実績の概要 |
イネ種子貯蔵タンパク質グルテリンは小胞体上で前駆体として合成後、ゴルジ体を経由して液胞へと輸送され、液胞内で2つのサブユニットに開裂し、成熟型グルテリンとして蓄積される。グルテリンの合成・輸送・蓄積までの過程には様々な因子が関与しているが、その中の1つであるGLUP2/GOT1Bはグルテリンの小胞体からゴルジ体への輸送に関与することが示された。 本研究は、グルテリンの小胞体からの出芽及び輸送におけるGOT1Bの機能を明らかにすることを目的としている。酵母において、GOT1BはCOPII被膜小胞の小胞体からゴルジ体への小胞輸送に関与するとの報告があるが、イネにおいて未だCOPII被膜小胞の存在は明らかになっていない。そこで、イネ胚乳細胞において、COPII被膜小胞の存在を捉えるため、野生型イネ登熟種子を高圧急速凍結固定法により包埋した。同試料を用いて、電子顕微鏡解析により、COPII被膜小胞の特定を目指している。 低カロリー米の作出を目的として、30~50%のカロリーオフが見込める高水分吸収変異体米が選抜された。そのうちの1つであるEM305(got1b変異体)は高水分吸収変異体米候補であった。glup2/got1b変異体米の水分吸収性を明らかにするために、水稲品種「ヒノヒカリ」とglup2/got1b変異体の交雑F2種子の遺伝子型をdCAPSマーカーを用いて野生型とglup2型とに分け、これらの米の水分吸水性を1粒炊飯法により解析した。その結果、glup2/got1b変異体米は野生型に比べて炊飯後の水分吸収率が有意に増加した。この結果は、glup2/got1b変異体米は高水分吸水性を有していることを示唆しており、glup2/got1b変異体米が低カロリー米として利用できる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イネ種子胚乳細胞内にCOPII被膜小胞の存在を明らかにするために、野生型イネ登熟種子を高圧急速凍結固定法により包埋した。この方法は細胞を生きたままの状態で固定できるため、COPII被膜小胞の形態や同小胞膜上に存在するタンパク質等の解析も実現可能となる。本固定法を行い、顕微鏡解析を行ったが、現時点では明確な結果は得られておらず、今後継続して解析する予定である。COPII被膜小胞の構成タンパク質の一つにSar1が存在する。このSar1に対する特異抗体を用いて、COPII被膜小胞の探索を続ける。 更に、glup2/got1b変異体米の水分吸収性を明らかにするために、水稲品種「ヒノヒカリ」とglup2/got1b変異体の交雑F2種子の水分吸水性を1粒炊飯法により解析した。その結果、glup2/got1b変異体米は野生型に比べて炊飯後の水分吸収率が有意に増加していた。この結果は、glup2/got1b変異体米は高水分吸水性を有していることを示唆しており、glup2/got1b変異体米が低カロリー米として利用できる可能性を示した。今後は、水稲品種「北陸193号」とglup2/got1b変異体の交雑F2種子においても同様の解析を行い、glup2/got1b変異体米の水分吸水性が高いことを実証し、低カロリー米及び低カロリー米を用いた加工食品の開発につなげる。
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今後の研究の推進方策 |
イネ胚乳細胞内において、COPII被膜小胞を特定するために、COPII被膜小胞の構成タンパク質の一つであるSar1を標識とし、イネ種子内にSar1が発現しているのかをウエスタンブロットにより調査する。Sar1の特異バンドが得られた際は、同抗体を用いて顕微鏡解析を行い、COPII被膜小胞の特定を試みる。試料には高圧急速凍結技法により固定・包埋した野生型の登熟種子を用いる。COPII被膜小胞の存在を明らかにした際は、同小胞の膜にGLUP2/GOT1Bの局在の有無を免疫組織化学的手法により明らかにすると共に、同小胞内にグルテリン前駆体が局在するかを調査する。 glup2/got1b変異体種子において、グルテリン前駆体が高蓄積しているにもかかわらず、成熟型グルテリンは野生型とほぼ同程度の蓄積が認められる。このことから、グルテリン前駆体の小胞体から液胞への輸送には、GLUP2/GOT1B以外の別の因子の存在が示唆される。そこで、グルテリン前駆体の小胞体からの出芽・輸送に関わる新規因子を同定するために、GLUP2/GOT1Bと相互作用するタンパク質を見出す。まず、野生型の登熟種子の粗抽出液を調製し、GLUP2/GOT1B抗体を用いて免疫沈澱法を行う。回収された沈降物をSDS-PAGEに供し、得られた数本のバンドについてMALDI-TOFMSを用いて質量分析を行う。イネ胚乳細胞においてCOPII被膜小胞以外の輸送小胞が存在する可能性も考えられ、それら新規の輸送小胞に関する情報が得られる可能性がある。
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