AVP(バソプレシン)及びOXT(オキシトシン)ニューロンの細胞内Cl濃度の決定は、KCC2(K-Cl共輸送体)とNKCC1(Na-K-2Cl共輸送体)の活性バランスに起因する。Clを流入させるNKCC1の発現量が、AVPとOXTニューロンの間で同等であるものの、Clを流出させるKCC2の発現量がOXTニューロンに比べてAVPニューロンが低いため、細胞膜を介するClの差し引きからAVPニューロンの細胞内Cl濃度が高い事が知られている。 本年度は、AVPおよびOXTニューロンにおけるNKCC1の発現量について、リアルタイムPCR法を用いて検討した。その結果、NKCC1もKCC2と同様に両ニューロンで発現が確認されたが、OXTニューロンに比べてAVPニューロンにおける発現量が低い事が明らかになった。この結果は、これまでの報告と異なり、AVPニューロンにおける細胞内Clの細胞外への汲み入れもKCC2の発現と同様にOXTニューロンに比べて落ちている事を示唆した。 これらの結果と、昨年度に明らかにした、KCC2発現量がOXTニューロンに比べてAVPニューロンで著しく低下していたことを総合的に考察すると、AVPニューロンにおけるKCC2とNKCC1の遺伝子発現が共に低い事から、AVPニューロンにおける細胞内Cl濃度決定は、これら2つの発現量のみで決まるのではなく、他のClチャネル又はトランポーターも関与している可能性が示唆された。今後は、形質膜をClを透過させる他の膜たんぱく質の発現やKCC2とNKCC1の活性制御因子の探索について検討する必要がある。 また本年度は、形質膜をClを透過させる候補分子に関連した内容「2010年代に分子実体の一部が解明された、酸や低浸透圧で活性化する3種のClチャネル」を総説にまとめた。この論文は、Frontiers in Physiologyの国際雑誌に投稿し、受理された。
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