研究課題/領域番号 |
18J40119
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 梓 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2019-01-04 – 2022-03-31
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キーワード | エピゲノム / 成人T細胞白血病 |
研究実績の概要 |
成人T細胞白血病(ATL) は、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1) の感染により発症する難治性のT細胞悪性腫瘍である。本研究ではATL細胞のクロマチン構造を解析することで、ATL細胞発症に関わる異常なクロマチン構造を同定し、それを引きおこす因子の解明を目指す。ATL症例のクロマチン構造解析にはATAC-seqという手法を用いてデータ収集を行っている。 初年度は既存のデータに追加してさらに症例数を増やして解析を行う予定であったが、2019年1月から3月までという限られた期間であったため既存のデータのより詳細なデータ解析を行った。健常人の造血幹細胞からT細胞に至るまで13種類の血球分画との比較により、全てのATL症例でクロマチンが開いているにも関わらず、健常人ではどの血球分画でもクロマチンが閉じている領域が複数見つかった。これらの領域の近傍遺伝子の発現を調べると、ATL症例でのみ全症例で発現が確認された遺伝子が見つかった。この遺伝子はプロテアーゼをコードするものであり、欠失は胎生致死に至ることが報告されているが、成人においては遺伝子発現や発がんとの関連は報告されていなかった。そこで、この遺伝子のコードするタンパク質が、免疫療法のターゲットとなり得るか確認するためLIPSアッセイにより、ATL20症例の血清を用いて抗原性を確認したところ、抗原性は確認できなかった。 今後はノックダウン実験によりこの遺伝子がATL細胞の生存に重要な役割を果たしているのか検証を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は2019年1月から3月の3ヶ月であり、本来はサンプルを増やし解析をする予定であったら、サンプル収集の問題と、外注シークエンスのデータ納品に数週間かかるため、新規データの取得を行うことができなかった。 また治療標的候補と有力視していた分子の抗原性の確認ができず、別の候補分子の探索および検証に時間がかかった。
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今後の研究の推進方策 |
HTLV-1ウイルスタンパク質は宿主細胞のシグナル伝達経路に影響を及ぼす等、さまざまな機能を有していることが明らかとなっている。このことは、ATL細胞と健常細胞の比較解析結果には、単に感染に伴う宿主細胞の変化が多く含まれていることが示唆している。このように白血病発症に関わる異常をより精度高く検出するためには、さらにデータを増やし精度の高い絞り込みが必要である。 HTLV-1関連疾患には、HTLV-1関連脊髄症(HAM)というATLとはまったく病態の異なる疾患も存在することから、2つの疾患の比較解析をすることは、ATL発症のメカニズムを知る上で重要な知見を提供することが予想される。また、HTLV-1に感染しているが、どちらの疾患も発症していない無症候性キャリアとの比較解析も、同様に有効であると考えられる。 次年度はATL症例サンプル、HAM症例サンプルの追加シークエンスを予定している。健常人とATL症例の比較や、無症候性キャリアのHTLV-1感染細胞とATL症例の比較解析、またHAM症例とATL症例の比較解析により、ATL発症の重要な因子の絞り込みを行い、検証実験へと進めていく。 現在すでに健常人とATL症例との比較解析により、ATL細胞で特異的に機能していると推定される転写因子や分子が絞りこまれている。今後はこれらの分子の機能をノックダウン実験により検証し、治療標的ターゲットとなり得るのか検討していく。
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