研究課題/領域番号 |
18J40121
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
酒井 晶子 新潟大学, 医歯学系, 特別研究員(RPD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 臨界期 / 神経回路可塑性 / ChIP-seq / クロマチン / コヒーシン / コルネリア・デ・ランゲ症候群 / PV細胞 |
研究実績の概要 |
生後の脳の正常な発達には、経験により神経回路の可塑性が高まる「臨界期」が重要である。本研究では、臨界期の遺伝子発現とその基盤となる細胞種特異的なクロマチン動態を明らかにすることを目的として、遺伝子制御領域間の相互作用を司り、神経細胞の発達に重要なコヒーシンに着目している。マウス大脳皮質視覚野の発達をモデル系として以下の解析を行った。 経験により大脳皮質のコヒーシン動態が変化するのかを調べるために、臨界期マウスの視覚野のコヒーシン結合部位をChIP-seqにより同定し、暗所飼育により視覚経験を遮断した同じ週齢マウスのものと比較したところ、視覚経験に依存したコヒーシン結合部位が存在することが分かった。それらのコヒーシン結合部位を転写開始点近傍に持つ遺伝子群は、転写制御因子に加え、神経の発達や細胞の環境応答に関係する遺伝子、さらに活動電位や抑制性後シナプス電位に関する遺伝子が多かった。これらのことから、経験依存的にコヒーシンにより遺伝子発現が制御され、神経回路の発達が促されることが示唆された。 また、経験により発達し臨界期に必須な抑制性ニューロンであるPV細胞におけるコヒーシンの役割を調べるため、コヒーシン関連因子をPV細胞で欠損させたコンディショナルノックアウトマウスを用いて、PV細胞特異的なトランスクリプトーム解析を行った。成体に比べて臨界期でコントロールと比較した発現変動遺伝子の数が多く、中でもPV細胞の発達に必要であることが知られている遺伝子が多く含まれていた。一方、野生型マウスの臨界期前、臨界期、成体におけるPV細胞特異的なトランスクリプトーム解析においては、PV細胞が未熟な臨界期前から臨界期の間に遺伝子発現が大きく変化することが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスクリプトーム解析およびクロマチン因子のゲノムワイド解析には、抑制性ニューロンの中でも臨界期に重要なPV細胞のみを分取する計画に変更したため、マウス系統の作成・繁殖、および実験条件の検討に時間を有したが、結果としてより精度の高いトランスクリプトームデータを得るに至った。よって研究はおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、細胞種特異的な網羅的局在解析の系の確立を試み、臨界期のPV細胞におけるエンハンサーおよびコヒーシンの結合部位の同定を目指す。トランスクリプトーム解析と合わせて、コヒーシンにより制御され得る遺伝子群を明らかにする。さらに、コヒーシン関連因子のコンディショナルノックアウトマウスを用いて、臨界期可塑性におけるコヒーシンの役割について電気生理学を用いた機能解析を行う。
|