研究課題
本研究は、ショウジョウバエの気管内腔に形成される等間隔アクチンリングが、特定の脂質や分子を近傍の細胞膜にリクルートすることで、分泌・取り込みに特化した機能領域を作り出す、という仮説に基づき実施している。本年度は、主に下記の結果が得られた。①気管細胞のアピカル膜におけるF-アクチンの挙動を、lifeact-GFPマーカーにより可視化し、Zeiss社のLSM880 Airyscan技術により詳細に観察し、画像解析した。その結果F-アクチンは、アピカル膜に集積して小さなF-アクチン集合体を作るステップ1、それぞれの集合体が気管の長軸方向から円周方向へ角度を変化させるステップ2、円周方向に並んだ集合体が連結して長いアクチンケーブルを作るステップ3に大きく分かれる事が明らかとなった。② アクチンリングパターン形成に必須で、リング上もしくはリング間に局在する分子の同定を試みた。ショウジョウバエゲノム上でアクチン結合分子と推定される全131の候補遺伝子に対するRNAi発現系統をライブラリーから取り寄せ、それらのRNAiを発現させた際のアクチンパターンを解析した。その結果、パターンを強く乱すRNAi発現系統が12見つかった。③スクリーニングで重要と考えられたアクチン結合分子の局在を調べるため、ライブラリーからGFPトラップ系統もしくはGFP融合タンパク質発現系統を取り寄せ、それらの局在を解析した。その結果、多くがアピカル膜では網目状のパターンを示し、アクチンのように直線的なケーブル状パターンを示すものは少なかった。④分泌に重要なSec5のGFP融合タンパク質発現系統を用いてその発現タイミングと局在を観察したところ、分泌の盛んな拡張期初期(ステップ1)に強く発現し、その後直ちにGFPシグナルが減少するという時期特異性を示した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、①等間隔アクチンリングが形成される過程の超解像イメージングおよび画像解析、②等間隔アクチンリングのパターン形成に必要なアクチン結合分子の同定を目指したスクリーニング、③同スクリーニングにより得られた分子の局在パターンの確認、④分泌・取り込みに関連する分子の超解像イメージング、について主に行い、予定した通りの結果が得られた。予定していたGFP11x3のノックインに関しては、ショウジョウバエの生体内に導入したところ輝度が想定よりも低くなってしまい、さらにGFP1-10の細胞毒性が認められたため、まずはGFP全長の過剰発現系統を作ることとした。今後、重要な候補がさらに絞られ、内在性のタンパク質の挙動を観察することが特に重要と思われた場合には再度split GFPを検討する。
等間隔アクチンリングのパターン形成に必要なアクチン結合分子の同定を目指したスクリーニングでは、パターンを強く乱すRNAi発現系統が12見つかり、そのうち6系統はアクチン集合体の角度および長さに異常が見られ、残りの6系統はアクチン集合体の長さに異常が見られた。それらのRNAiの標的遺伝子は、直線的なアクチン繊維の重合を行うフォルミンファミリー蛋白質や、アクトミオシン繊維の収縮性に関わるミオシン・トロポニンなどのアクチン結合分子や、細胞分裂時の収縮環形成に中心的な役割を担うセプチンなどが含まれた。セプチンは培養細胞においてエクソシスト複合体と結合し、細胞膜へのリクルートへ寄与することが報告されているため、アクトミオシン繊維と分泌機構をつなぐ分子の候補と考えられる。今後はこれらの分子が、互いにどのように関わり合っているか、遺伝的相互作用を見ることで検証する。また、スクリーニングで同定された分子のうち、既存のGFP系統が無い場合は、GFP融合タンパク質の発現系統を作製するため、DNA合成を利用したコンストラクション、ショウジョウバエ胚へのインジェクション、系統化を行っている。今後、それぞれの分子とアクチンケーブルとの位置関係を定量的に解析する。さらに、現在、分泌領域を観察するためのmCD8-SEPプローブの発現系統を作製中であり、様々なアクチンパターンを示す状況下の分泌領域を観察する予定である。
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Current Biology
巻: 29 ページ: 1512-1520
https://doi.org/10.1016/j.cub.2019.03.043