研究実績の概要 |
第1年目の研究実施状況として、研究課題に密接にかかわる成果としてはまず、2018年7月7日に早稲田大学でのワークショップ “The Resonant Middle Ages: Transmission of Political and Scientific Thoughts between Medieval Europe, Persia, and China in Global History” に招待され、自らの中間史の構想を発表し、有意義に議論することができた。 本研究計画は1)文献学的研究、2)マクロ・ヒストリー、3)ミクロ・ヒストリーの3つのフェーズに大別されるが、初年度はまずマクロ・ヒストリーの部分に関して、研究成果を文章化することができた。この論考が扱うのはユーラシア規模での学術交流であり、特にこの文脈ではイル・ハン朝と元朝(1271~1368年)で同時並行的に行われていた『本草』編纂事業に焦点が当てられる。ここで鍵となるのが、漢語史料に愛薛の名で現れる東方シリア教会の通詞イーサーである。彼は1263年に元朝下で設立された医術官庁の責任者となり、1285年には使節としてイル・ハン朝を訪れている。研究代表者は元代知識人の文選である『牧庵集』にアシグタイの名で現れるイーサーの息子アスタイに着目した。「イル・ハン朝翻訳計画」の唯一の成果であった漢語医書のペルシア語訳『珍貴の書』はその序文で、ラシード・アッディーンが漢字についての情報を「西アジアの出身で後に中国へと渡った医者の息子」から得たとしている。本論考では、この翻訳計画における東方シリア教徒たちの関与を考察しながら、その「医者の息子」がイーサーの息子アスタイであったことを論証した。当論考が収録された論集は北京大学出版から2019年夏に刊行される予定となっている。
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