研究実績の概要 |
本研究の目的は,グローバルな「環境ダメージの緩和」に対する評価を決定する要因を明らかにし,評価者の多様性を考慮した便益評価の手法を開発することである.既に取得済みの19ヵ国(G20)の健康や生態系に関する大規模アンケート調査のデータをもとに,4つの異なる非市場財(人間健康(DALY, Disability-Adjusted Life-Years),資源(USD),生物多様性(EINES, Expected Increase in Number of Extinct Species),一次生産(NPP, Net Primary Production))に対する国別・世帯別の評価額と,国の経済水準,世帯の所得水準,さらに時間選好率,幸福度等の個人属性との定量的な関係性を明らかにすることを試みた. 本年度は,(1)19ヵ国全てのデータを使って,潜在クラスモデルで評価の傾向とセグメントを推計した.その結果を受けて,モデルの精緻化を目的に,(2)4つの非市場財の評価と評価者の属性の関係を,国,地域,個人の水準を考慮して予備的に検証した.具体的には,ランダムパラメータロジットモデルで個人別の評価額(WTP)を推計し,評価者の属性との関係を定量的な把握した.さらに,幸福度研究と環境評価に関わる文献を調査し,国際比較研究の枠組みを検討した. 国別に推計した結果,新興国では人間健康に対する評価が高いのに対して,先進国では生態系保全が,インフラ整備や健康対策よりも限界的に高い価値を持っていた.さらに潜在クラスモデルを用いて,世帯属性による違いを分析すると,幸福度が高い(低い)層は生態系評価も高い(低い)傾向が見られた.幸福度は,回答者の相対所得や生活・医療の環境などを反映していると考えられ,国内の「格差」によっても,生態系に対する評価の大小が異なっていると解釈できる.
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