大気中には、様々な組成・形態を有するエアロゾル粒子が存在している。本研究では、観測される多様な形状の粒子について、観測データの整理と室内実験により、粒子形態と粒子の生成・変質過程・光学特性との関係性を明確にすることで、粒子の形態情報の汎用性を広げ、エアロゾル粒子の気候影響の正確な理解に貢献することを目指した。研究は、A:大気観測で見られる粒子形態とその分別条件の整理、およびB: 実験的手法による粒子形状の再現とで構成される。該当年度は、新型コロナウィルス感染症により、研究活動を通常通りに行うことが困難であったが、感染症対策との両立を図りながら研究を進めた。研究Aで整理した大気エアロゾル試料に見られる3種類の硫酸塩粒子の形態について、研究Bでは大気エアロゾル粒子の主要成分である硫酸アンモニウムを用いた再現を試みてきた。粒子が経験する湿度条件を変えることで、目的の粒子形態の再現に成功した。この研究成果は、国際的学術誌(Aerosol Science and Technology)で公開されており、今後、エアロゾル粒子の形態を含めた光学特性の理論計算、および実際の大気環境に対応する粒子形態や光学特性の変化の推定に役立つと期待できる。さらに、グローバルな粒子形態の情報の収集のため、研究Aの観測に基づく調査研究を継続して行った。2018年度の海洋研究開発機構の学術研究船・白鳳丸のインド洋航海(KH18-06)で取得した大気エアロゾル試料の分析を行った。大きな大気汚染物質の排出源として注目されているインド周辺から輸送された気塊では、球形とその凝集型の粒子が多く、よく中和された硫酸塩であった。以上のように、実験と観測からのアプローチにより研究を行い、両方の整合性・関係性の調査が進んだ。
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