研究課題/領域番号 |
18J40212
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小林 知里 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 植食性昆虫 / 植物の被食防衛 / 植物の誘導防御 / 植物加工行動 / カタビロハムシ / アシナガゾウムシ / Herbivore offense |
研究実績の概要 |
カタビロハムシは「産卵する茎につく葉を全て切り落とす」という植物加工を行うが、この加工を行わないと、(1)卵から孵化直後の死亡率が大幅に増加(約半数が死亡)、(2)幼虫後期の死亡も増加、最終的には蛹に至る前に全て死亡することがわかっている。 そこで今年度は、加工せず葉がついたままと葉を切り落とした場合とで、産卵された茎での遺伝子の発現がどのように異なるかを調べた。具体的には、卵を(1)葉付きの茎に移植 (2)葉を人為的に切り落とした茎に移植、の2処理について、移植後定期的にそれぞれ複数個体から茎と葉を採集し、RNAのサンプリングを行った。結果は現在解析中であるが、処理間で異なる遺伝子発現が見えてきており、「葉を介した茎の防衛」という新たな植物被食防衛系の理解、そしてそれに対する植食者の新しい克服法の解明へ向けて画期的な知見が得られると考えられる。今年度の結果をもとに、令和2年度のサンプリング計画を立て、さらに充実したサンプリングを行う予定である。 また、カタビロハムシの野外実験に加えて、今年度は同様の植物加工行動を持つシロオビアカアシナガゾウムシ(寄主植物ヤマアジサイ)についても、カタビロハムシで昨年度行ったものと同様の野外操作実験を行った。その結果、ハムシと異なり、ゾウムシでは葉がついたままだと致死効果ではなく幼虫の成長遅延があることがわかった。つまり、葉を切り落として産卵する植物加工の効果は、「植物の被食防衛を遮断する」ことでは共通するが、効果の内容はそれぞれの寄主植物あるいは昆虫種によって異なることが示唆された。 野外研究に加え、「切る・巻く・潜る・コブつくる:植物を加工する植食性昆虫の多様性・進化・適応的意義」というシンポジウムを生態学会にて企画を行った。執筆活動としては、植物加工を行うイクビチョッキリに関する野外実験についての論文をまとめ、現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「茎につく葉を切り落として産卵する」という植食性昆虫の「剪定」植物加工行動について、カタビロハムシおよびアシナガゾウムシにおいて野外操作実験を行うことができ、加工行動が成長あるいは生存に与える影響を明らかにすることができた。さらに、カタビロハムシについては茎と葉で卵移植後に発現する遺伝子の違いを検出することができそうであり、加工の適応的な意義について、そのメカニズムまで解明されるものと期待できる。当初の計画では、茎や葉の化学分析および微生物群集比較も遂行予定だったが、実際のフィールドにおけるカタビロハムシ個体数が少ないこと、産卵する茎が想像以上に細く分析に耐えるだけの量を確保することが困難なことに加え、遺伝子発現から物質的な変化を捉え加工の意義のメカニズムを想定することが可能であると判断したことから、今回の研究ではまず遺伝子発現量解析を優先して行うこととした。 加工行動と多様化の関係についての解析は、種のサンプリングがまだ完了しておらず、最終年度に引き続き精力的なサンプリングを行うことが必要である。 このように、複数種で「剪定加工」行動の効果を検出できたこと、一種ではRNA発言料解析も順調に進んでいることから、研究は概ね計画通りに進んでいると判断できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続きカタビロハムシの野外操作実験を行い、茎および葉でのRNA発現量の比較実験を優先的に進めることとする。カタビロハムシの野外実験及び解析の合間に、様々な季節でフィールドにて「剪定」植物加工と多様化との関連を検証するための加工する植食性昆虫種のサンプリングを進める。化学分析および微生物群集解析については、十分大きなカタビロハムシ個体群が見つかってからの研究ということで、今回は保留とする。これらの解析を保留としても、RNA発現量解析をしっかり行うことで、加工行動の適応的意義は少なくとも最低限の部分は解明できるものと考えられる。
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