誘導型血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(DI-E-RAMP2-/-)を用いて、ルイス肺癌細胞のリンパ節転移の検討を行った。DI-E-RAMP2-/-では、原発巣のサイズがControlよりも小さいにも関わらず、リンパ節への転移が亢進する結果が得られた。DI-E-RAMP2-/-では、リンパ節内に存在する高内皮細静脈(HEV)が減少すると共に構造異常を生じており、さらにリンパ節内のT細胞の減少、樹状細胞の分布異常が認められた。FACSによる解析でも、リンパ節におけるCD4+T細胞、CD8+T細胞の減少が確認された。さらにDI-E-RAMP2-/-のリンパ節では、HEVがリンパ球を誘引するためのケモカイン類や、接着因子の発現も低下していた。 一方、DI-E-RAMP2-/-の血管を電顕で観察すると、内皮細胞の空砲化や多数のマイクロベジクル形成が認められた。ベジクルがエクソソームとして癌転移に促進的に働くのではないかと考え、炎症誘発物質であるTNF-αによって、初代培養した内皮細胞へ刺激を行った。その結果、 Controlと比較して、DI-E-RAMP2-/-由来エクソソームの分泌量は有意に増加した。内皮細胞由来エクソソームのみを抽出し、マイクロアレイを行った結果、癌細胞の生存や転移に関わるmiR29の発現がDI-E-RAMP2-/-では有意に低下していた。 以上の結果から、血管のAM-RAMP2系の欠損は、癌細胞の接着を亢進させるだけでなく、血管由来エクソソームが癌細胞に働きかけ、生存や悪性度を亢進させている可能性が考えられた。さらに、血管の恒常性の破綻は、癌細胞の血行性転移だけでなく、リンパ節転移亢進につながることも明らかとなった。AM-RAMP2システムが有する血管恒常性制御作用は、癌転移抑制のための新しい治療標的となることが期待される。
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