研究実績の概要 |
前年度に、肝脂質蓄積、肝炎症、肝線維化、肝腫瘍化までの発症過程および病態発症の性差を再現した非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)由来肝発ガンモデル系を構築した。このモデル系において、肝臓特異的Bcl6欠損(Bcl6 LKO)マウスを用いた解析により、NASH発症におけるBcl6の関与を明らかにした。 本年度は、肝臓におけるBcl6の分子機能をマウス個体レベルで検証するために、アデノ随伴ウィルス(AAV)によるin vivo肝臓特異的過剰発現系を構築した。まず、Bcl6-LKOマウスにCholine-deficient, L-amino-acid-defined, high-fat diet (CDAHFD)の給餌により、NASHを誘導する条件において、AAVによりBcl6を過剰発現させた。コントロールのAAV感染条件では、遺伝子導入がなされないために肝傷害の指標であるGPT値は野生型に比べてBcl6-LKOマウスでは低いという今までと同様の結果が得られた。一方でAAVによるBcl6の過剰発現条件下ではBcl6-LKOマウスにおいてコントロールAAV感染マウスよりもGPT値は高値を示し、Bcl6の発現量と肝傷害との関連が示唆された。 そこで、通常食条件下の野生型オスマウスにコントロールAAVとBcl6-AAVを感染させ、Bcl6の肝臓への影響を検証した。この結果、コントロールAAVマウスでは通常食条件下のGPT値は10 IU/L前後の低値であったが、AAV-Bcl6感染マウスでは通常食条件下にも関わらず、GPT値が病態を示すほどの500 IU/L前後の高値を示した(N=4)。さらに、通常食条件下では肝細胞はほとんど脂肪滴の蓄積を認めないのに対して、Bcl6過剰発現により肝細胞に脂肪滴が検出され、Bcl6の過剰発現により脂肪肝が誘導されていることが示唆された。これらのことから、Bcl6が直接的には肝脂質蓄積や肝傷害に関与する下流シグナルを活性化することが明らかとなった。
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