研究課題
本研究は、乳児期までの栄養環境が、児の骨格筋の発達にどの様に影響し、それが乳幼児期以降の運動機能の個人差をどの様に決定づけるかを明らかにすることを目的としている。骨格筋の発達に関わる指標として、乳幼児において筋力および筋量を評価する。当該年度は、児の筋力を評価する試みとして、出生前コホート研究に参加している生後1か月児を対象に、乳幼児握力計(竹井機器工業株式会社)を用いた把握力の測定を開始した。把握力は、1か月健診時に左右2回ずつ測定し、左右いずれかの最大値を採用した。現在までに収集した10名のうち、データベースに組み入れた7名について解析を行った。その結果、対象児の把握力は、平均値(±標準偏差)で0.63(±0.23)kg、範囲は0.37~0.96kgを示した。対象者数が少ないことから、栄養環境や運動発達との関連性を検討することは難しいが、生後1か月時点での把握力に関する資料が得られ、臨床研究における測定の実行可能性を確認することができた。また、予備的な検討として、新生児1名を対象に生後5日目~生後28日目にかけて、1日2~3試行(各試行で左右2回ずつ)の把握力測定を、週に2~3回継続して行った。各測定日における最大値を解析したところ、生後5日目から28日目にかけて、対象児の把握力は0.24kgから0.75kgへと増加する傾向がみられた。各試行において得られたすべての値を用いて、生後5日目から28日目までの変化を傾向検定を用いて検定したところ、有意な増加傾向が認められた(p=0.009)。これらの結果から、新生児期における把握力は個人における神経発達を反映する指標として有用である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究開始1年目となる平成30年度は、骨格筋の発達に関わる指標として、乳児の筋力を評価する新しい研究をすすめた。都内大学病院と共同ですすめていた母児を対象とした出生前コホート研究において、児の精細なフォローアップを行う新しい研究(親子フォローアップ研究)を開始し、その研究において生後1か月児を対象に把握力の測定を開始した。倫理委員会の承認を得て8月より測定を開始し、現在までに約10名の握力のデータを収集した。しかし、出生前コホート研究の新規リクルートが中止となったため、その参加者を対象として行っていた親子フォローアップ研究についても年度末で実施が打ち切りとなってしまった。この点は想定外であったが、新しい研究をスタートしデータ収集をすすめられた現時点までは期待通りの進展であった。この他に、乳幼児における握力測定の信頼性を確認するために、生後5日の新生児1名および2歳児2名を対象に、1日2~3試行(各試行で左右2回ずつ)の(把)握力測定を、週に2~3回×1か月程度継続して行った。現在、これらのデータを解析する準備をすすめているところである。今後計画の見直しが必要であるが、生後1か月児の把握力の測定を国内外で初めて体系的に実施し、コホート研究における測定の実行可能性を確認することができた点や、その他にも関連するデータ収集および解析が行えた点を踏まて、「おおむね順調に進展している」と評価した。
今後は、ニュージーランド・オークランド大学・Liggins研究所で行われているランダム化比較試験(DIfferent Approaches to MOderate & late preterm Nutrition: DIAMOND STUDY)の一部として、本研究を遂行する。DIAMOND STUDYにおいては、発達遅延のハイリスク群である早産児に対して、出生後から母乳栄養が確立するまで異なる栄養学的介入を行い、アウトカムとして2歳時点の神経発達の評価を行う。児の除脂肪量(≒筋量)の測定が当初より含まれているこの研究のプロトコルに、新たに児の筋力(握力)の測定を組み込む予定である。なお、この計画変更に伴い、渡航期間を当初予定の半年間から2年間に延長した上で、前倒しで平成31年3月中旬より渡航を開始した。
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International Journal of Molecular Sciences
巻: 20 ページ: E1066
10.3390/ijms20051066
PLoS ONE
巻: 13 ページ: e0204030
10.1371/journal.pone.0204030