研究課題
本研究は、乳児期までの栄養環境が、児の骨格筋の発達にどの様に影響し、それが乳幼児期以降の運動機能の個人差をどの様に決定づけるかを明らかにすることを目的としている。骨格筋の発達に関わる指標として、乳幼児の筋力(握力)や筋量を評価する。当該年度はまず、昨年度に日本国内の出生コホート研究において取得した、生後1か月児(生後31.6±3.3日)14名の握力(本研究では、把握反射時に発揮される把握力を指す)のデータの精査をすすめ、生後1か月児における握力測定の①実行可能性、②パフォーマンスという2つの観点から検討を行った。①14名中1名では、測定に従事させることが難しかったが、他の13名では有効な測定値が4試行中2試行以上において得られた。この結果から高い実行可能性が示され、今後コホート研究や健診等において、生後1か月児を対象とした握力の評価が可能であると考えられた。②有効なデータが得られた13名について解析を行い、生後1か月児が把握反射時に発揮する握力は0.56±0.20kgであることを明らかにした。これによって、新生児がどの程度の握力を発揮するかを初めて体系的な方法で示すことができた。この研究は、これまで不明であった、発達の初期段階の握力について新たな知見を追加した点で重要であり、ヒトの筋力の発達について重要な基礎資料を提供するものである。なお、この成果は2020年度に開催予定のPerinatal Society of Australia & New Zealand 2020での発表が予定されている。また当該年度は、上記の実績を土台にして、海外の研究機関と共同で乳幼児の握力を評価する研究をスタートさせることができた。この研究では筋量や栄養に関する情報も取得するため、申請者の課題である栄養と骨格筋(筋力・筋量)との関連が検討可能となる見込みである。
3: やや遅れている
研究開始1年目の末に、日本国内で都内大学病院との共同研究として実施していた出生前コホート研究が中止となったことにより、その参加児を対象として行っていた申請者の研究も打ち切りとなってしまった。しかし、当該年度より、オークランド大学リギンス研究所(ニュージーランド)が児のフォローアップを行っている臨床研究(DIfferent Approaches to MOderate & late preterm Nutrition: DIAMOND trial)の一部として、申請者の研究課題を遂行できることとなった。当該年度はニュージーランドに渡航後、研究実施に必要な倫理面の手続き、機材調達、測定のプロトコルおよび標準操作手順書の作成等を完了し、年度の後半から試験的にデータの収集にとりかかることができた。当初の日本国内での計画はうまくいかなかったものの、よりよい形に変えて(観察研究→無作為化比較試験、+詳細な運動発達検査)計画を実施できるようになった点では、研究自体は大きく発展していると考える。しかし、再度0からのデータ収集となってしまうため、当初に予定していた年次計画からすると、データの収集が遅れている。したがって、「やや遅れている」とした。
COVID-19の影響により、2020年3月26日からニュージーランド全土におよぶロックダウンが開始されたことによって、6週間以上にわたり研究活動が停止した。2020年5月中旬より、徐々に研究活動の再開が行われているものの、今後フォローアップ研究における対象者の追跡率の低下が予想され、以前と同じペースでデータ収集を行うことは難しいと思われる。申請者のデータ収集にも支障が及ぶ可能性が高いが、当面の方策としては、研究期間終了直前までデータ収集を継続して行い、解析に耐える人数の確保に努める。また、長期的な視点からは、研究期間終了後も同じコホートでのデータ収集を継続できるような体制や方策を探る。
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