研究課題/領域番号 |
18J40254
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
森谷 理紗 大東文化大学, 大東文化大学, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2019-01-04 – 2022-03-31
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キーワード | ロシア / シベリア抑留 / 音楽 / 異文化接触 |
研究実績の概要 |
本年度は、「シベリア抑留」と日本人捕虜の文化創造活動に関係する先行研究や写真集等の一次資料及び元抑留者の体験記等から、「シベリア抑留」研究の現在の動向を探った。その上で、これまでまとまった研究がされていない音楽その他の文化・芸術の側面をどのように読み解き、今後どのように研究を進めていくべきかを検討してきた。 一次資料では、ハバロフスクの極東軍事博物館などに所蔵される写真をまとめた『シベリア抑留-歴史の流れの中で』(1997、ヒューマン社)の中に、これまで未確認であった新たな楽団の写真が見つかり、次年度からのロシアにおけるフィールドワークの手がかりができた。 また、2017年に出版された画家、四國五郎の『わが青春の記録』(三人社)に、収容所内で行っていた文化活動(紙芝居)に付随音楽が創作される等、音楽との関わりがあった具体的な記述を確認することができた。日本人の目線から当時の様子が示された有益な資料として今後さらに精読を進める予定である。 さらに、個々の具体的な資料として、「異国の丘」の作曲家で、戦後の歌謡曲の世界で重鎮となった吉田正が、満州兵役中・シベリア抑留中に書いた歌を集めたCD「戦場の歌-新発掘・吉田メロディ」を入手した。これまで数曲しか知られていなかった抑留中の創作物には、吉田自身が作詞した曲もあり、日記と同様吉田自身の心情や音楽的な変遷を分析することで、戦後の創作活動にいかに溶け込んでいったかの検証が可能であるだろう。 この他、研究の方法論に関して、G.C. スピヴァク他によるサバルタンスタディーズに関する見識を深めているところである。ポストコロニアルの思想や歴史的資料の現代からの読み解き方を参考に、本研究に明確な視点を付与したいと考えている。 本年度内に、これまでの研究成果を国内のシンポジウム、研究会ならびに国際学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採用期間が1月スタートのため、今年度は3か月という短期間であったが、国内シンポジウム、研究会、国際学会において3度の研究発表を行った(1.新春特別シンポジウム「海外から見たシベリア抑留―若手研究者による最新の研究―」、「抑留者が伝えたロシア音楽の系譜」、2019年1月5日、舞鶴引揚記念館、2.「文化としての社会主義」研究会、「ラーゲリとロシアの歌―異文化接触の場としてのシベリア抑留―」、2019年2月10日、大谷大学、3. 4th AAWH (The Asian Association of World Historian) Congress, “Music and Culture as Heritages of War: A Case Study of Japanese POWs in the Soviet Union”, January 6 2019, Osaka University)。研究会等においては、日本国内外の歴史学や教育関係等、様々な分野の専門家と意見交換をすることができた。また、これまで行われてこなかった歴史的事象の音楽や文化面に焦点を当てた本研究に関心を持つ方も多く、高評価を得た。 また、日ロの若手研究者と共に「舞鶴引揚記念館」で行った一般向けのシンポジウムは、聴講者たちの関心を集め、新聞複数誌において掲載された。 以上の口頭発表に加えて、これまでに出版されてきたシベリア抑留者自身の体験記や日ロ交流史の専門研究書・論文等の文献を収集するほか、国内各地に居住する元抑留者の聞き取り調査も開始している。来年度からのフィールドワークに必要な現地の公文書館の情報も日ロの専門家等から収集している段階である。したがって、研究の進捗状況はおおむね順調であると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度以降は、前年度から行ってきた文献調査に加え、フィールドワークを本格的に開始し、本研究の中心課題である 1945年から1956年までのシベリア抑留中の日本人の文化創造活動の実態に迫る。また、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター内のシベリア抑留者支援・記録センター(東京)で、前年度も行ってきた楽譜等の一次資料の調査を引き続き行っていく。 5月以降は「異国の丘」の作曲家、吉田正記念館(茨城県日立市)や、都内の平和祈念展示資料館等に出張し、元シベリア抑留者と歌に関する記録の調査を行う予定である。前年度、吉田正が満州兵役中・シベリア抑留中に書いた曲のCDを入手しており、音楽的・文学的な側面からの時系列に沿った個々の作品分析も並行して行いつつ、様々な資料を集めて多角的な研究を目指す。 この他、各収容所内で自発的に始めた多種多様な文化活動について、日本国内のインタビュー調査を積極的に進める。 秋以降はロシア国立軍事文書館の「創造創作」総蔵書(モスクワ)、ロシア国立映画・写真資料館(クラスノゴルスク)の調査を行う。また、この期間中、短期間シベリアに渡り、ハバロフスク州文書館資料収集の他、帰国後再びシベリアに転居し現在も音楽活動を行う田中猛氏にインタビュー調査を行うことを予定している。これまでロシアの公文書館で日本人の収容所における文化活動に関する資料の調査が専門的に行われた形跡はほぼ無く、今回の調査で新たな資料が見つかることが期待される。 帰国後は、これらの成果を学術誌、学会、展示やレクチャーコンサート等さまざまな形で発表する。 なお、本研究の成果を中心に、三年間で単著『近現代日露音楽交流史(仮)』を執筆する計画で、現在、受入研究者の指導の下で構成等の検討を進めている。
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