研究課題/領域番号 |
18K00001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
千葉 惠 北海道大学, 文学研究院, 名誉教授 (30227326)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 信 / 贖罪 / 身代り / 意味論 / 神 / イエス・キリスト / パウロ / 和解 |
研究実績の概要 |
『信の哲学』上巻(2018)においては、パウロ「ローマ書」のいかなる神学的解釈もその枠のなかで遂行されねばならない言語的な特徴を解明した。例えば職名を伴った固有名「イエス・キリスト」は「イエス」や「キリスト」と異なり行為主体として用いられることはない。パウロは神でもひとでもある存在者に一つの行為を帰属させることができなかったからである。またナザレのイエスの出来事はわれらには過去のことであり過去時制で表現されるが、「われらの古きひと」という仕方でキリストの死と「ともに磔られた」と何等か同化されるがそれは聖霊の働きを要求することなしには理解できない「霊と力能の論証」(1Cor.2:4)のことであった。それに対し聖霊に対する言及なしにも理解できる「知恵の説得的議論」もパウロは展開している。たとえば信仰義認論や予定論は神の知恵として神ご自身の認識がパウロにより報告されており、それは一つの整合的な言語網(神の前の)を展開しており、それ自身として理解可能なものであった。これらの言語哲学的前提のもとに、贖罪論の神学的解明に従事した。それは「身代りの愛の力能」(「方舟」62号、2021.1)として上梓された。これは神学的な議論であり、従来の贖罪論のどれが適切であるかを論じた。代罰論でも身代金説でもなく、アンセルムスの父と子の協働説が正しいことを論じた。このように哲学的言語分析を基礎にしつつも論争多い主題についても哲学的次元の基礎のもとに神学的解釈を展開できることを明らかにした。なおルターの身代わりの贖罪論は「汝はあらゆる罪を犯せるすべての者である」という同一性言明で説明されるが、「汝は・・すべての者の身代わりである」と述べられねばならなかった。パウロが「神は罪を知らざる方をわれらの代わりに罪と為した」と語るとき、「身代りの罪」を罪なきイエスに担わせたのであって、罰したわけではない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年3月に本研究の方法論的基礎であるアリストテレスの様相存在論の英語版をOxford University Pressから出版予定の論文集に提出したが、コロナのため遅れ、ようやく1月末に編集者によって出版社に提出された。今年度中にはAristotle on Modal Ontologyが上梓されることを望んでいる。なお「みなもとの信と信のみなもと」という題による宗教改革の77箇条の提題の日本語版がほぼできたが、英語版にまだいたっていない。これができれば、本研究は様相存在論の論文と77箇条の提題として完成すると言える。77箇条の序文の英文ができているはずであったが、新しい職務(学生寮の管理運営である寮長)により遅れていることもその理由として挙げられる。OUPの刊行と「みなもとの信」序文の英訳により、遅れを取り戻すことになる。
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今後の研究の推進方策 |
本年中にOUPに提出した英語論文の出版にこぎつけること。これはロゴスとエルゴン、理論と実践の相補性として展開されるパウロ神学の哲学的基礎研究となるものである。これは『信の哲学』第二章に相当する。それと平行して宗教改革の77箇条の提題を英語に翻訳することを目指す。日本語版はほぼできている。これによりわたしの研究はより分かりやすいものとなるであろう。コロナの状況によるが北大で贖罪論についての研究会を持ちたいと考えている(日程は未定)。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で研究が順調ではなく、1年間の延長を申請したため。
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