公正な研究を推進することに適した組織を科学的知識の公共性の観点から検討することかがこの研究のテーマである。科学的知識が公共的に利用可能となるため には、知識の利用者である一般の人々の教育や、科学情報の流通過程も視野に入れる必要があるため、科学コミュニケーションの研究もおこなってきた。2020年 度から2021年度末までは、新型コロナウイルス感染症への政策的対応において、感染症専門家や専門家集団が助言者として果たすべき役割を、研究公正の観点か ら研究していた。2022年度には、これまでの研究をまとめるために、東北大学大学院文学研究科において、担当している演習(生命環境倫理学特論)において、 研究公正/研究倫理に関する講義を行った。2023年度には、人文社会形における研究不正として件数が多い、盗用に焦点を絞り、その問題性を明らかにした。 盗用がもたらす害には二種類ある。一つは、研究制度上の問題であり、著作権を持っている研究者に本来、与えられるべき評価と名誉を、盗用した者が我がものにすることで、その研究者の評価を下げ、名誉を奪うこと、もう一つは、著作権を持っている研究者の人格を傷つけるという個人へ加害することである。つまり、著作物やその中に表明される著者独自の思考や考えは、著者にとっての人生の意味の核をなすものとして、その人が社会に向かって誇ることができるのであるが、盗用という行為は、著者に対する社会からの評価と、自分の人生への誇りを同時に奪うものである。 この盗用についての考察を含む内容を、今年度実施した、三回のFDで発表した。
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