本研究が明らかにしたのは、謝罪が、固有のアイデンティティを備えた諸人格が「社会のなかで共に生きる」という人間存在の根本条件を基盤として、社会的な信頼や名誉の維持ないし回復を目指して行われるものである、という事情である。謝罪の前提をなす責任の自覚は、他者たちによる非難と責任の追及とを主要な源泉としており、道徳的アイデンティティを備えた人格として「善き生」を生きることを目指す個人は、そうした責任を内在化し、謝罪を促される。以上のように、「謝罪とは何か」という問題は、人間存在の根本条件の解明を目指す哲学的人間学における根本問題なのである。
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