研究課題/領域番号 |
18K00008
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
一ノ瀬 正樹 武蔵野大学, グローバル学部, 教授 (20232407)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 震災関連死 / 反事実的条件分析 / 信念の倫理 / 過失 / 過失の未遂 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、まず単著『いのちとリスクの哲学 病災害の世界をしなやかに生き抜くために』(ミュー)を刊行して、その中で、「震災関連死の原因」という章を立て、東日本大震災と福島原発事故の後に、とりわけ福島県において多発した震災関連死が、なにゆえ発生してしまったか、その原因と責任の所在をどこに求めるのが正当なのかについて、「因果関係の反事実的条件分析」の手法におもに依拠することによって、一定の考え方を提起するに至った。また、武蔵野大学教養教育リサーチセンター紀要『The Basis』に、「「信念の倫理」研究序説」と題した論文を発表した。そこで、心の中の思い、すなわち「信念」だけでも、道徳的評価の対象となりうるというクリフォードの議論の検討を本格的に着手した。「過失」あるいは「過失の未遂」といった刑法上の概念にも目を注ぎながら、不十分な証拠に基づいて、すなわち不注意な仕方で、誤った信念を抱くことの倫理的問題性について論じた。災害時の風評やデマについて、倫理的にアプローチしていくための準備段階の考察である。概して、令和2年度は大きな研究の進展があったと言えると思われる。これ以外に、新型コロナウイルス感染症問題について、シンポジウムや講演も急遽行った。こうした状況の中で発生する人権の制限、そしてトリアージの問題に沿って、伝統的な倫理学の限界をして句すると同時に、「物体性を伴う倫理」という新しい概念を提起するにも至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の初期段階では考察射程に入っていなかった「信念の倫理」について、本研究課題に深く関係していることが気づかれ、その面についての研究を本格的に開始することができた点、非常に大きな進展であった。もちろん、単著『いのちとリスクの哲学』の刊行に至った点も、非常に大きい。リスク概念が絡む事象において原因や責任を帰属するのは困難があるが、その問題をどう考えるべきかについて、一定の目処をつけることができた点は、非常に意義があったと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「信念の倫理」研究をさらに掘り下げていく。その際、注意深い証拠の探索を「しなかった」という一種の不在あるいは不作為を原因とした、誤った信念の形成、という因果関係に注目して、因果論の研究成果をこの主題にも直接突き合わせていきたい。不在因果に絡む「野放図因果」などの問題を議論に反映させることによって、責任の代償の問題についても一定の図式を提示していきたい。
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