研究課題
2021年度は、、これまで得られた知見をさらに視野を広げ、1.国家論、2.シェリング自然哲学との関係の二つの観点から検討を行った。第一に、2020年度に着想を得た生命概念と国家論との関係について、ヘーゲル国家論における有機体概念の検討を行った。ヘーゲルは、部分が全体を目的とする形で統合されている組織を有機体として理解しており、その際にヘーゲルが生物に関して見いだしていたのと同様の正常性の概念を、国家にも当てはめていることが明らかになった。さらに、この正常性の概念はヘーゲルが「概念把握」と呼んでいる独自の認識方法と結びついており、有機体理解がヘーゲル哲学の根幹ともいえる「概念」理解と深く関わることものであるという知見を得ることができた。第二に、シェリングの『自然哲学への考案』のテキストの検討を行った。本書でシェリングは有機体を扱っていないが、彼の自然哲学の構想の出発点であり、本書で構想された動力学からの自然の各領域の段階的演繹というコンセプトにしたがって、後の『動力学的過程の一般的演繹』では有機体が導出されている。後者で予告されている有機体論は執筆されなかったが、シェリングが感受性、刺激反応性、再生産(形成衝動)からなる当時の有機体概念を動力学的力(根源力)概念からのポテンツ高次化の展開の中で導出しようとしていることは明らかである。ヘーゲルもまた動力学的な物質論から、目的を持った物質として有機体を最終的に展開しており、両者の比較検討を行うことで、ポテンツ論と弁証法的発展という両者の方法の差異を浮き彫りにすることができた。第三に、下記の国際会議での研究報告への準備として、ヘーゲルの有機体論における病気と死の概念から、ヘーゲルの考える精神の概念における非正常性の重要性について検討する原稿を執筆した。
2: おおむね順調に進展している
2020年度に開催予定であった国際会議をこの2021年度に延期していたが、2021年度も新型コロナウィルスの流行が続き海外渡航が制限されていたために、共同主催を予定しているイェナ大学のフィーヴェーク教授と相談の上、2022年度に再度延期することとした。この点を除いて、カンギレムの正常性とトンプソンの自然誌的概念というコンセプトからヘーゲルの有機体論を検討するという当初の目的は果たされたと言ってよい。さらに、そこから着想された国家論との関係についても一般的な有機的国家論という理解よりもさらに進んで、「概念把握」というヘーゲル哲学の根幹に関わる問題まで広げて検討することができた。
2022年度は、コロナ禍のため延期になっていた国際会議を9月に京都大学で開催する。本会議のための準備は、2021年度のうちに進めることができ、ドイツ、香港、韓国、中国、台湾からゲストを迎える予定である。今回、再びコロナ禍の影響により、対面での開催が難しくなった場合には、オンラインでの開催も検討する。この国際会議では「ヘーゲルにおける自然と生命」と主題とし、『精神現象学』、「論理学」、「自然哲学」等の観点からヘーゲルの自然概念と生命概念の検討を行う。研究代表者は、ヘーゲルの有機体概念における非正常性の意義とその精神概念に対する構成的役割についてドイツ語で研究報告を行う予定である。
新型コロナウィルスの世界的流行によって、予定していた国際会議の開催を2022年度に延期したため。2022年9月に京都大学にて国際会議を開催する際の招へい旅費、宿泊費、および報告原稿の校閲費として使用する。
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