研究課題/領域番号 |
18K00012
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
瀬口 昌久 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40262943)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 事物の本性 / ブルーノ / ガッサンディ / 無限宇宙 / 原子論 / 摂理 / 複数世界 |
研究実績の概要 |
今年度は、ルクレティウスの『事物の本性について』が、ブルーノ、ガッサンディ、ホッブズ、ボイル、ニュートンらにどのように影響を与え、批判的に受容されていったかを主として調査検討した。ブルーノは、中世を支配した宇宙像、すなわちプトレマイオスによって数学的に補強されたアリストテレスの宇宙論を基礎とするキリスト教的世界観に挑んで、コペルニクスの地動説を採用し、エピクロス・ルクレティウスの原子論の立場から無限宇宙論と複数世界説を主張した。ブルーノは、コペルニクスの地動説を採ったうえで、無限宇宙論と原子論とを結合させた最初の哲学者であった。彼は、ルクレティウスに依拠して、宇宙が無限であって、中心もなく、縁もないとして、空間の無限性を明確に主張した。ブルーノは閉ざされた宇宙観を否定するだけではなく、世界の複数性や文化の多様性を認めたこともあり、普遍宗教としてのキリスト教を否定する危険思想とされ、ブルーノは異端とみなされて孤立し、悲劇的な死を招くことになった。神の摂理の教義を基礎とし、物質主義を批判するキリスト教文化のなかで、原子論のアイデアを公に受容するためには、原子論そのものを抜本的に改変する必要があった。エピクロス哲学を再評価し、キリスト教文化のなかで受容可能な仕方で原子論を再構築し、自然学理論として復活させたのが、哲学者で司祭でもあったガッサンディである。しかし、彼は、エピクロスが否定した「無からの創造」「神の摂理」「魂の不死」「原子と空虚とは異なる第三の実体」「神の自然現象への介入と人間への特別な関心」をことごとく肯定し、古代原子論の根本的な書き換えを行なった。ガッサンディによって、ルクレティウスの世界像が、ボイルやニュートンなどに受け入れられていった経緯を跡づけることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年8月に心臓手術を受けるなど健康面での問題があり、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、研究計画に遅れがでた。
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今後の研究の推進方策 |
ガッサンディが再興したエピクロス―ルクレティウスの哲学は、近代自然科学に大きな影響を与えたが、ルクレティウスの詩は、伝統的には宗教の領域に属すると考えられていた諸問題を人間の合理的思索の対象とするという仕方で、ルネサンス期から近代にかけて文学や倫理学の分野にも大きな影響を及ぼした。文学は人々の理性や意識の上ではまだ明確になっていない思想の萌芽や時代感覚をつねに先取りして表現するものであるため、ルクレティウスの影響と受容は、文学世界の方が自然科学の領域よりもずっと早い。 今年度は、ルクレティウスの文学世界への影響を研究する。とくに、ルクレティウスを先駆けて受容したフランスの文学に焦点を当てる。メインとなるのが、モンテーニュである。彼の『エセー』ではルクレティウスが149回も引用されている。その内実を分析したい。また、近年の作家としてはアナトール・フランスを取り上げる。次に焦点を当てるのは、イギリスの文学への遅れた影響である。イギリスは、ルクレティウスの翻訳も遅いが、ミルトンにも影響をみることができるし、ロマン派の詩人たちにも影響を与えたことが知られている。ワーズワース、エラズマス・ダーウィン、シェリー、メアリー・シェリーなどにどのように受容されていったか研究する。また、『エピキュリアン・マリウス』を書いた19世紀のウォルター・ペイターも取り上げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年8月に心臓手術をして療養を余儀なくされ、新型コロナウイルスの感染拡大もあり、予定の研究計画に遅れが生じたため。体調の回復が見込まれるので、遅れている研究のスピードアップをはかる。
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