当年度は、今日、『エーネジデムス』(1792)の著者として知られるシュルツェ(Gottlob Ernst Schulze)の著作のうち、我が国では殆ど扱われていない『哲学的諸学の摘要』(以下、『摘要』と略記)を中心にその内容とカント哲学との関係を探求すべく読解を試みた。研究成果としては、「カント研究会」における口頭発表がある。 二巻から成る『摘要』は、1788年に公刊された第一巻の大部分が「心理学」をテーマ(ただし一部「道徳学」も含まれる)となっているが、その叙述は感覚を基にし経験的性格を多分に帯びていること、および「アプリオリな総合判断」に重きを置くカント哲学とは相容れないことを明らかにした。また、1790年公刊の『摘要』第二巻は「形而上学」(『摘要』では「存在論」、「自然神学」、「超越論的宇宙論」に区分される)を主題としているが、すでに第一巻の段階でカントの「物自体」概念に批判的であったシュルツェは、「物自体」を前提するカント的な形而上学には否定的であることを述べようとした。 当年度の研究を通じて、『摘要』には『エーネジデムス』におけるカント批判に繋がる論点のいくつかを確認できたものの、カントの『オプス・ポストゥムム』におけるエーネジデムスに対する文言と直接結びつけることはできないことも同時に明らかとなった。
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