研究課題/領域番号 |
18K00027
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
増渕 隆史 北海道大学, 文学研究院, 共同研究員 (60528248)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 人工知能 / AIと説明責任 / AI取引と公正 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、前年度に引き続き関連文献・資料の収集・分析および関連学会等における情報収集を行うとともに、学会発表、学会発表の発表要旨の作成および論文の執筆・投稿を行った。 関連文献・資料の収集としては、倫理学、AI関連の書籍を購入した。学会発表としては、令和元年6月22日に東京工業大学で開催された日本経営倫理学会第27回研究発表大会において、「AIトレードと金融市場の倫理-AIがもたらす市場の混乱とモラル・ディレンマー」という題目で研究発表を行った。関連学会等での情報収集としては、前述の日本経営倫理学会のほか、令和元年10月4~6日開催の日本倫理学会および令和2年1月10日開催の「機械学習と公平に関するシンポジウム」に参加して、関連情報の収集を行った。 研究の発表要旨については、平成30年12月22日開催の北海道大学哲学会研究発表会にて行った研究発表「契約行為における人工知能の地位 -「道具」からの脱却は可能か」の内容を、発表要旨「人工知能と説明責任」としてまとめ北海道哲学会会誌『哲学年報』65号(令和元年9月)に投稿、掲載された。また、日本経営倫理学会第27回研究発表大会での発表をもとに、論文「金融市場におけるアルゴリズム取引と市場の公正」を執筆し、『日本経営倫理学会誌』に投稿した。査読結果は一部修正の条件付きで掲載可であったが、要修正事項についての修正がかなわず、掲載不可となった。 本研究の意義であるが、まず発表要旨「人工知能と説明責任」においては、人工知能と説明責任の問題点について、一定の整理ができたと考える。また論文に関しては、掲載には至らなかったが、市場における倫理規範である公正と、アルゴリズム取引に向けられる不公正という批判について、倫理学の観点から一定の見解を提示することができたと考える。今後は指摘事項に対する修正を行い、発表の実現を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度目標としていた論文発表がかなわず、目標達成に遅れが生じた。理由としては第一に、考察の対象としていたアルゴリズム取引の具体的内容や市場における活用実態およびその基盤となっているファイナンス理論などに関して調査・理解が不十分であったため、それらの評価に適切ではない部分があり、論文の修正が困難であったためである。第二に、アルゴリズム取引におけるAIの責任負担の範囲に関し、明確な区分の基準が提示できず、論文内で両立しない異なる責任の範囲を提示するという矛盾が生じ、その矛盾を解消することができなかったためである。 また本論文は金融市場におけるアルゴリズム取引の倫理的問題をテーマとしているものの、執筆の過程で問題の焦点が、研究テーマである説明責任の問題から市場における公正の問題へと移行してしまったため、本来の研究テーマである金融におけるAI取引における説明責任の帰属の問題から離れてしまい、本来の研究目的の達成を遅らせることとなったのは否めない。 また、令和元年度後半は、研究代表者の次年度からの研究機関の異動が発生し、そのための手続きや準備で研究活動が制約された。また年度末近傍に参加を予定していた研究会等が新型コロナウィルスの影響で中止になるなど、情報収集に関して影響があった。以上が本課題の進捗状況に関する自己点検による評価である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策であるが、前記「現在までの進捗状況」に記載の通り、論文の執筆および研究テーマからの乖離が発生しているため、遅れを取り戻すとともに、本来の研究テーマへの回帰を推進する必要がある。 そのための具体的な方策として、第一に査読により指摘された問題点への対応を行い、修正を早期に完了させ、修正稿の完成を行いたい。第二に、今後の研究対象を金融市場の公正の問題から、人工知能への責任帰属の問題へと今一度立ち返り研究を行いたい。具体的には倫理学の立場から、アルゴリズム取引を行う人工知能を自律した行為者とみなし、説明責任や結果責任を問うという考え方の基礎にある、自律、責任といった倫理的概念の分析及び問い直しを重点的に行っていきたい。 このような研究内容の転換を早急に推進し、新たな研究テーマに沿って学会発表、論文執筆を進めていくこととしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していた人工知能学会への参加であるが、本研究のテーマである金融関係のセッションや研究発表がなく、参加をしなかった。また今年度後半より研究機関の異動の準備や手続きおよび転居等の準備といった事情が生じ、研究活動に影響した。最後に参加を予定していた年度末近傍の研究会等が新型コロナウイルスの影響で中止になり、情報収集活動ができなかった。 次年度は研究機関の異動も完了するため、この面での活動の制約は解消される。また研究会・学会等での研究発表・情報収集活動も、学会等が開催可能になった時点で、積極的に行っていく予定である。
|