研究課題/領域番号 |
18K00028
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村松 正隆 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (70348168)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 自己愛 / ジャンケレヴィッチ / ルイ・ラヴェル / 林達夫 / イロニー |
研究実績の概要 |
本研究においては、まず、ミシェル・アンリの小説『若き士官』において、「悪」と「生」が重ねられていること、ならびにこの重ね合わせにおいて、「自己愛」が一種の鍵概念となることを明らかにし、また、上記のミシェル・アンリの小説において、「悪」が、存在者の存在の条件とされているのではないか、という解釈を提出した。また、ミシェル・アンリの小説一般についても、「自己性」や「悪」との関わりの中で分析を行った。 また、「自己愛」概念については、この解毒剤として機能するイロニーの概念に着目し、特に、「イロニー」を新たに「反語」として引き受け、「反語的精神」を賞揚した林達夫の姿勢を日本独自のものとして捉え、かつ、彼に影響を与えたジャンケレヴィッチのイロニー論との対比の中で、林達夫の「反語的精神」の歴史的意義を論じた。即ち彼の反語的精神とは、言論を抑圧する社会状況においての生存のための術策であると同時に、彼自身が明言するように、彼の生き方の原則であること、またその背後には、一種美的な発想があり、即ち、芸術的とは現実と理念との対立、矛盾をあるがままに表現しようとする、という林達夫の芸術観が、林達夫の反語論の背景にあること、また、ジャンケレヴィッチのイロニー論が一定の影響を与えていることを明らかにした。 その他、ルイ・ラヴェルの著作については読解作業を続けており、「悪」を批判しつつも「善」の実現のために必要な条件であるとするラヴェルの悪論が、彼の自己愛批判と平行関係にあることを明らかにしようと考え、現在論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に併せて、ミシェル・アンリの小説論や林達夫のアイロニー論を、自己愛批判という文脈と重ね合わせる作業を行っているが、これらについて論文執筆、ならびに口頭発表を行っており、一定の成果を挙げていると考えることができる。ジャンケレヴィッチ、ルイ・ラヴェルの読解については、読解作業を続けており、これらについては、2019年度には論文の執筆が期待できる状況にある。 以上の点から、「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
ミシェル・アンリの小説論については、今後も分析を続けることとしている。まずは『若き士官』に関する論考をまとめ、併せて『目を閉じて、愛』の読解作業を続ける。また、林達夫については、これまでの発表をさらに発展させたものを、国際学会などで発表することを予定している。 また、ルイ・ラヴェルならびにジャンケレヴィッチについては、彼らの自己愛論に焦点を当てた論文を執筆する予定である。
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