本研究全体を通じて、上代から存在する「技、術、芸」という三位一体的な概念の階梯性について、「芸を技でこなす術」という世阿弥の芸能論における輻輳的階梯性、および将棋や武術などにみられる「技から術、術から芸へ」という発展的階梯性の二つの側面から、立体的な仕方で解明できた。またこれを踏まえて、「技、術、芸」のこうした立体的で多面的な階梯性と日本的職工世界の特性の関係を技術倫理的観点から解明できた。またそれをもとに本研究では、「技」から「術」へ、そして「術」から「芸」へという段階的価値観に沿ういわゆる「ものづくり」世界を、芸道観に基づく「芸を技でこなす術」という視点から再構成できた。その際、日本文学的見地からする世阿弥芸能論や心理学的見地からする勝敗心理との連携も考慮しつつ、「術」概念を中心にして日本の職工世界の性質を解明することを通して、職人的技術と科学技術との違いを学際的に考察することができた。
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