研究課題/領域番号 |
18K00031
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
檜垣 良成 筑波大学, 人文社会系, 教授 (10289283)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カント / 自然神学 / 抽象 / 直観 / 神の知性 |
研究実績の概要 |
1. アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテンの『形而上学』第4部「自然神学」の「神の知性」論を再検討し、人間の知性との差異を確認した。カントの「人間の知性」論は『純粋理性の批判』に見いだされるが、「神の知性」論の検討は、神学講義によらなければならない。現存するカントの神学講義のテクストはいずれも1783/4年の同じ講義の筆記ノートと言われているが、3つの主要筆記ノートを比較対照したKurt Beyerの研究も参照しながら、やはりペーリツのテクストを中心にして、カントの「神の知性」論を検討した。
2. 神の知性を人間の知性と比べた際に、まず確認されることは、人間の知性が「抽象的」にしか認識できないのに対して、神の知性は「直観的」であり、具体的に認識するはずであるという点である。カントは、既に前批判期において「抽象」と「捨象」との区別に注目し、「抽象」によっては「厳密な普遍性」は期待できないことを喝破していた。もちろん、「捨象」による「実在的」知性認識は批判期においては断念されるが、批判期においても純粋な知性認識は堅持され、なおかつ、プラトン以来のイデア的対象の前提が払拭されている点は特筆されてよい。こうした点をまとめて、哲学・思想学会にて口頭発表を行なった。
3. ヘーゲルらに抽象的と揶揄されてきたカントの定言的命法の思想であるが、カントが想定していた道徳法則が無内容ではないことは神の意志を考えてみれば分かる。ただ人間にとっては、道徳法則はさしあたり抽象的に定言的命法として意識され、経験によって鋭くされた判断力によって形成された格率の普遍化可能性の検討を通してその内実に迫ってゆくしかないのである。このことは、カント倫理学の欠陥ではなく、むしろ人間の理性の有限性を強く自覚した者の責任の担い方を表現している。こうした研究成果を論文にまとめ、日本カント協会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カント神学における神の知性の検討を持続的に遂行できた。神学思想を射程に入れることによって、定言的命法の理解にも新たな光を当てることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、神の「知性」を中心にバウムガルテンとカントの神学思想を再検討してきたが、今後、神の「意志」、そして、神の「気に入り」(Wohlgefallen)へも射程を広げて、さらにカント神学の意義に迫ってゆきたい。このことによって、カントが人間の「知性」(理性)、「意志」、「感情」をどのように捉えていたかが、より判明になるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
端数の残高を無理に使用せず、次年度予算と合わせて、バウムガルテンおよびカントに関する研究資料代として有効に活用するため。
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