研究実績の概要 |
1. バウムガルテンの『形而上学』第4部「自然神学」における「神の道徳的属性」論を再検討した上で、カントにおける「神聖性」(sanctitas, Heiligkeit)、「慈悲」(bonitas, Guetigkeit)、「正義」(justitia, Gerechtigkeit)について神学講義を検討した。現存するカントの神学講義のテクストはいずれも1783/4年の同じ講義の筆記ノートと言われているが、3つの主要筆記ノートを比較対照したKurt Beyerの研究も参照しながら、やはりペーリツのテクストを中心にして、カントが神の三つの道徳的属性と、人間における道徳性、幸福、最高善の三者との関係をどのように考えていたかを明らかにした。
2. カント哲学における「真とみなすこと」(Fuerwahrhalten)という概念自体は、ゲオルグ・フリードリヒ・マイアーの『理性論(論理学)』に見いだされる「真とみなす」(fuer wahr halten)や「確信」(Ueberzeugung)の問題を継承したものであると見なしうるが、カントは「信(信仰)」(Glauben)という観点に重点を置いて、その概念に独自の深化をもたらした。『純粋理性の批判』超越論的方法論の「純粋理性のカノン」において、「思念すること」(Meinen)、「信じること」、「知ること」(Wissen)という3つの「真とみなすこと」が展開されているが、「知ること」は「信じること」を前提としている。「真とみなすこと」は、「知」の問題においてのみならず、カント実践哲学の最重要概念とも言いうる「誠実性」(Redlichkeit)の理解においても重要な役割を演じることが、『弁神論におけるあらゆる哲学的試みの失敗に関して』(1791年)における「真(wahr)であること」と「真実(wahrhaft)であること」との区別から判明した。
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