研究課題/領域番号 |
18K00032
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
新川 拓哉 北海道大学, 文学研究科, 共同研究員 (20769658)
|
研究分担者 |
宮原 克典 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (00772047)
西田 知史 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 主任研究員 (90751933)
濱田 太陽 沖縄科学技術大学院大学, 神経計算ユニット, ジュニアリサーチフェロー (40842258)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 意識 / 現象学 / 神経現象学 / 両眼視野闘争 / 意識の構造 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、神経科学の三人称的観点と現象学の一人称的観点を融合させた「神経現象学」の手法を中核にして、意識の構造を科学的に探究するための研究枠組みを確立することである。本年度は、「現象学的トレーニング方法の開発・改良」と「両眼視野闘争の現象学的特徴の解明」の二つのテーマについて研究を行った。以下ではそれぞれの研究について記述していく。 科学的な意識研究においては実験参加者から意識経験の諸特徴についての報告を得る必要がある。しかし、環境内の事物の記述と区別できる仕方で意識経験を記述するのは簡単ではない。特に、次の二点が課題となっていた。(1)注意を環境内の事物から経験そのものへと向け替えること、(2)経験そのものへの豊かで分かりやすい記述を与えること。そこで私たちは、これらの課題を達成するための一時間程度のトレーニングを開発し、その効果を検討した。その結果、いくつかの問題点が発見された(トレーニングのマニュアル化が難しい、トレーニングの効果があるタイプの経験が限定されている、等)。今後の研究では、その問題点を解決した新たなトレーニングプログラムを開発する予定である。 両眼視野闘争はこれまでの科学的な意識研究で非常によく使用されてきた。だが、両眼視野闘争の現象学的特徴についてはまだ十全な研究がされていない。本研究では、両眼視野闘争の現象学的特徴を解明するための実験を行った。その結果、両眼視野闘争は通常の知覚経験と比較して「時空間的不確定性(いつどこで経験の変化が生じているかはっきりしない)」、「空間的非統合性(経験が空間的に統合されていない)」、「注意依存性(経験の変化が注意に依存する)」の三つの特徴があることが分かった。今後の研究では、両眼視野闘争がこうした特徴をもつことが科学的な意識研究に対してどういう含意をもつかを検討していくこととなる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の成果をいくつかの国際会議で発表することができ、そこでのフィードバックをもとに研究成果を論文化することができた。この論文は今後別の国際学会でも発表する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は次の三つの課題を中心に研究を行う予定である。(1)ヴァーチャルリアリティの現象学的特徴の研究、(2)現象学的トレーニングのさらなる改良、(3)両眼視野闘争を用いた意識の構造の解明。 我々が日常生活のなかでもつ「現実感」は私たちの意識経験の重要な構造的特徴である。現実感の神経基盤を探求するためには、「現実感」についての詳細な現象学的特徴づけが不可欠である。したがって本研究では、ヴァーチャルリアリティを用いて現実感の諸特徴を解明することを目指す。 これまでの研究で設計した現象学的トレーニング方法にはいくつかの課題があった。こうした課題を解消しつつ、現象学的トレーニングを実際の実験的意識研究において使用できるレベルまで改良することを目指す。 これまでの研究で両眼視野闘争の現象学的特徴を明らかにした。それに引き続き、両眼視野闘争を用いて「意識経験の時空間的な確定性」にかかわる神経メカニズムの研究を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者である宮原が異動に伴う多忙のため、予定していた学会発表の一部を中止したことにより、出張費・学会参加費に剰余が生じた(40万円相当)。また、予定していた論文の投稿が先延ばしになったため、英文校閲費・出版費の剰余が生じた(15万円相当)。昨年度に実施できなかった学会発表と論文投稿については、本年度に繰り越して実施する予定である。
|