本研究課題である「デザインとの協同による共創哲学の理論と実践」は、もともと私が2016年から始めた〈哲学×デザイン〉プロジェクトから構想したものだった。「共創哲学」とは、哲学対話を「思考を共に創り出す営み」としてより一般化して展開する試みである。それは、多様なユーザーによる利用を目指しつつ、プロダクトよりも作るプロセスのデザインをするinclusive designから着想を得ている。本プロジェクトでは、このような広い意味でのデザインを行っている人たちとの協働を進めてきた。コロナ禍の影響によって2年延長したおかげで、より充実した成果を出すことができた。延期1年目の2021年度は、オンライン開催の結果それ以前よりむしろ多くのイベントを行うことができたし、より多くの人たちに視聴・発信することもできた。延期2年目の2022年度は、2016年からの6年間の活動を総括する形で、その間に登壇した全員64名の人たちが寄稿したブックレット『共創のためのコラボレーション』を出すことができた。とりわけ重要な成果として挙げられるのは、以下の2点である。①場のデザインの意義:共創にとって重要なのは「場のデザイン」であり、そこは規範性が弱く、役割が固定的ではない(もしくは曖昧)必要がある。②新たなコミュニティ論:通常のコミュニティは共通点や類似点に基づいて成立するが、共創についての研究をすることで、相違点や異質性に基づく新たなコミュニティの可能性を見出すことができた。この二つは、今後さまざまな意味、いろんな場におけるインクルージョンを考えるさいの基礎となり、そこから様々な方向へ発展していくことができる。また今後、共創のための研究や活動を共にできる様々な人や団体とのつながりができたことも、本研究課題の大きな成果であった。
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