研究課題/領域番号 |
18K00034
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
仙波 由加里 お茶の水女子大学, ジェンダー研究所, 特任リサーチフェロー (00565872)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 配偶子ドナー / 匿名性の廃止 / 出生者の知る権利 / オーストラリア / ヴィクトリア |
研究実績の概要 |
2018年度は「諸外国の配偶子ドナーの匿名性と出生者の知る権利の対立への対処に関する研究」のために、4月から8月にかけては主に資料収集と文献調査に主力を置き、2018年8月27日~9月1日には、オーストラリア・ヴィクトリア州の配偶子ドナーの匿名性の廃止の状況について聞き取り調査を実施した。ヴィクトリア州では、2016年にAssisted Reproductive Treatment Amendment Act 2016 (Vic)(ART Amend Act)が成立し、2017年3月より施行されている。この法律で、ヴィクトリア州で提供された精子・卵子・配偶子で生まれた人は誰でも、出生年(時期)に関係なく、18歳になればドナーの氏名等を含むあらゆる情報にアクセスできるようになった。ART Amend Actは、ドナーのプライバシーよりも出生者の利益を全面的に尊重する画期的な法律として世界でも注目されている。 オーストラリア調査では、20年以上もカウンセラーとしてヴィクトリア州の配偶子提供を利用したレシピエントや出生者、ドナーたちにかかわってきたVARTAのKate Bourne氏からART Amend Actの施行後の状況やドナーリンキングについての話を聞いた。また、Karin Hammarberg氏(Monash University)にも面会し、ドナーの匿名性の全面廃止が検討されるようになったきっかけや、法案の作成時にあった議論などを聞いた。さらにThe History of Donor Conception Records in Victoria (2018)の執筆者の一人であるDeborah Dempsey氏(Swinburne University of Technology)からは、ART Amend Actができるまでの歴史的な経緯の詳細について説明を受けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度、研究計画で予定していた資料収集および文献調査は順調に進められた。また2018年の計画で予定していた通り、オーストラリア・ヴィクトリア州での調査も実施し、その結果については、分析をすすめている。調査で得られた情報や結果については、2019年5月17日から18日の期間にNational Taiwan UniversityのGlobal Asia Research Center(GARC)の主催で開催されるNew Reproductive Technologies and Global Assemblagesで、“Abolition of Gamete Donor Anonymity―What Can Japan Learn from the Experience of Victoria State, Australia and New Zealand?”というタイトルで、一部報告する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、研究計画に従って、9月にノルウェーで調査を実施する予定である。ノルウェー調査に際しては、Norwegian University of Science and Technology(NTNU)の研究者やParliamentary representative for Agder KrFの家族文化委員会のメンバーでもあるJorunn Gleditsch Lossius氏等から情報提供などの支援を受けながら、調査先等について準備をすすめている。 また、2018年に引き続き、2019年もオーストラリア・ヴィクトリア州やノルウェー以外で、配偶者ドナーの匿名性を廃止し、出生者の知る権利を尊重している国や地域の情報を収集していく予定である。2019年度に特に調査をすすめたい国は、ニュージーランド・ドイツ・イギリスである。これらの国の「出生者の知る権利」を保障するための法については、資料や文献を中心に、その歴史的な経緯や、法の施行前と施行後について調査をすすめ、現地の専門家とメール等で連絡をとりながら研究をすすめていく。結果については、随時、学会で報告したり、論文にまとめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
79,819円の使用額の差額が生じた理由は、第一に、文献や資料の整理や、オーストラリア調査で得たデータの整理のためのアルバイトを雇う予定で人件費を確保しておいたが、結局、分析の過程で、自分でそれらの整理をこなし、アルバイトを雇わなかったため、人件費がかからなかった。第二に、オーストラリア調査で調査協力者に謝金を払う予定であったが、その必要がなかったために、使用額に差額が生じた。 2018年度予算の繰越金ついては、2019年のノルウェー調査や、文献調査の際に使用していく予定である。
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