研究課題/領域番号 |
18K00036
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
黒川 英徳 金沢大学, GS教育系, 准教授 (30710230)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 証明論 / クライゼル / 非形式的厳密さ / 論理的帰結 / 完全性定理 / 直観主義論理 / 直観主義解析学 / 連続体仮説 |
研究実績の概要 |
本研究の当初の目的は、証明論的観点から「論理定項」の概念を特徴づけることにある。現在でもその方向の研究は継続中ではあるが、今年度は研究の方針に若干転換した。当初の計画にも述べた、クライゼルの(直観主義論理に関する)「構成の理論」の背景にある「非形式的厳密さ」(informal rigour)という概念に関する研究を行なった。これは論理学・数学の哲学における重要な「方法論」的概念である。 この変化は研究を進める上で方法論的問題関心が高まったことによる。この研究では、我々の論理・数学における実践がどのように形式化されるのか、されるべきかについてのクライゼルの洞察を再検討し、論理学における厳密な形式化が我々の論理的実践において使われる「非形式」な概念をどのように扱い得るのか、扱うべきかを探求する。その意味で今年度の研究の「意義」は本研究の目標を方法論的な観点からさらに掘り下げたものであるというところにある。 その研究の具体的内容は以下のようになる。非形式的厳密さ」の概念を扱った、クライゼルの「非形式的厳密さと完全性証明」という論文および関連論文を検討する検討する作業を行なった。とりわけ、(古典)1階述語論理の完全性定理のもつ(論理的帰結関係の概念との関係における)概念的意義、直観主義解析学における「創造的主体」の概念、2階述語論理における連続体仮説の論理的振る舞いの意義、クライゼルのカルナップ的なexplicationの概念への批判、また直観主義メタ理論における直観主義1階述語論理の不完全性の意義などの検討を行なった。尚、この研究はウォーリック大学のワルター・ディーンとの共同研究である。 この他、日本を代表する数理論理学者、竹内外史が日本語で書いた論文を英訳するという作業を行なった。これは本研究の課題の一つ、2階の論理における論理定項(特に2階の量化子)の扱いと関係している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、予期していなかった新型コロナウィルスの影響により、十分に研究に時間を使うことができなかった。そのため、全般的な傾向として研究の進捗は遅いと言わざるを得ない。パンデミックの影響ということでは、共同研究者と直接会って議論する機会を得ることができなかったということがとりわけ大きく影響している。これに関して言えば、一部の共同研究者とはオンラインで連絡を取り続け作業を続けることができたが(現在ドイツに滞在中の英、ウォーリック大学のワルター・ディーン)、論文の締め切り、研究代表者の若干の関心の変化などもあり、その他の研究者(フランス在住のアルベルト・ナイボ、ブラジル在住のマティア・ペトローロ)とは連絡が途絶えがちになり、研究も滞りがちになった。 それに加え、2020年度には、本研究の中心的なテーマから見るとやや周辺的な(むしろより基礎的と言ってもよいのだが)クライゼルの「非形式的厳密さ」という主題に関する関心が高まったため、その方面について研究を行なった。また竹内外史がその論理思想をきわめて率直に母語で表現した日本語の論文の翻訳を行ない、極めてラフなものとはいえ、一通り翻訳予定のテキストに訳稿を作成することができるほどの進捗を得た(後者については、当初の研究計画には入れていなかったが、後には本研究と本質的な関係があると考えるようになった)。 クライゼルについては長い論文1本を仕上げることができ、本研究に関係する研究としては重要な進展を見たものの、証明論に特に焦点を当てた研究、特にネステッド・シークエントに関する証明論的研究に割く時間が足りず、やや進捗が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究に属する研究としては、以下のような課題に取り組むことを予定している。 一つは本来予定していた、ネステッド・シークエントおよびそのサンビン的な意味での「反映原理」との関係に関する技術的な論文を書き上げることである。これは広範な非古典論理について、証明論的観点からよい性質(カット除去定理)をもった証明体系を自然な形で導入、定式化できると主張するものであり、本研究の哲学的主張を支える数学的・技術的成果ということになる。これは2020年度のパンデミックのため、また他の研究を進めるために進捗が遅れがちになっていた。結果は既に証明されているのだが、残念ながらこれまで論文にまとめる時間を取ることができなかった。これを2021年度中に出版することを目標とする。 もう一つ、2020年度のクライゼルの「非形式的厳密さ」についての研究はこれまでにも増して、この論理学者の持っていた直観主義数学・直観主義論理についての洞察の重要性を本研究の研究代表者に認識させることになった。そのため、今年度はクライゼルの直観主義に関する研究をさらに掘り下げ、特にクライゼルが導入した非法則的選列(lawless sequence)という概念、またbar inductionと呼ばれる直観主義数学において導入された概念に関してクライゼルが与えた分析が持つ、直観主義数学・直観主義論理に関する、また数学基礎論、数学の哲学一般についてもつ含意についてさらに研究する。例えば、この概念が直観主義論理の完全性、直観主義解析学の基礎、集合論の基礎についてもつ含意について研究する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスによるパンデミックのため、2020年度にはもともと予定していた海外出張ができなくなってしまったことが、次年度利用額が生じた最大の原因である。 2021年度はもし可能であれば年度が終わる前に海外出張をし、ヨーロッパの共同研究者らとの共同研究を進めることを希望している(しかしこれはパンデミックの状況がどうなるかに依存している。) もし海外出張が絶望的であるということになれば、図書の購入、デスクトップ・コンピュータの購入などに2021年度の予算を使用する予定である。
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備考 |
昨年度執筆し、プレゼンテーションをした論文のプレプリント。ワルター・ディーンとの共著。
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