色を科学的世界観のうちに位置づけることの困難さは、古くから指摘されてきた。だが、いまだ決着を見るには至ってない。その主たる要因は、我々には事物が色という性質を備えているようにしか見えなという事実と、科学的世界観との折り合いの悪さにある。本研究では、この問題を解消すべく、色とその知覚的クオリアに関する包括的な哲学的展望を、以下の[a]・[b]・[c]を満たすかたちで与えることを目指した。 [a]心的な諸事象を物理的ならざるものとはしない、心身論における物理主義。 [b]事物に帰される色を知覚者の心に生じる<内なる色>が環境に投影されたものとする、色についての投影主義。 [c]知覚者の<内なる色>の候補とみなされているクオリアなるものは端的に存在しないとする、クオリアについての消去主義。 [a]+[b]+[c]という本研究の目指すヴィジョンに対抗するものには、[a]・[b]・[c]のいずれを共有するかに応じてさまざまなタイプがある。その中でも本研究では、[b]のみを共有するものである物心二元論、とりわけ、我々の身体に生じる物理的事象と非物理的とされる心的事象──まさにクオリアがそれである──との間に因果的な影響関係があるとする相互作用的二元論の検討に力を注いだ。というのも、相互作用的二元論は早くからエネルギー保存則に抵触すると指摘され、そのためほとんど顧みられない状態が続いていたのだが、近年になって、この指摘そのものへの疑義が活発化してきたためである。 本研究では、平成30年度の開始時から上記の疑義を検討してきたが、令和2年度には、有力視されてきたその論拠に対する否定的評価に到達し、中部哲学会2020年大会シンポジウムにおいて、これを報告した。さらに、この報告に基づく論文を、令和3年度刊行予定の『中部哲学会年報』第53号に寄稿する権利を与えられている。
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