研究実績の概要 |
平成30年度においては、まず、デカルトが公刊を断念した『世界論』の論理が彼の第一哲学の議論の中でどのような役割を果たしているか、すなわち、彼の自然科学の知見が、それを支えるべく構築された第一哲学(形而上学)の中に(彼の意に反して)どのように組み込まれているかを検討した。その結果、例えば『省察』における彼の形而上学の中で、『世界論』で展開された彼の見解がその重要な構成要素としてたびたび用いられていることを具体的に確認するとともに、そもそも「観念」という、デカルトがその近代的用法を確立したテクニカルターム自体が、彼の自然学的論理空間の中で機能するものであったことを確認した。この確認作業においては、デカルトの自然学的見解を十二分に押さえるため、『哲学の原理』第二部以降の論述についても詳細な検討を加えた。 こうして、平成30年度の研究は、当初の計画に従って順調に遂行され、所期の目的を達成することになったが、当該年度においてはさらに、その研究と並行しかつそれを補完するものとして、いくつかの関連する研究を進めた。その一つは、カントの『純粋理性批判』に見られる自然学的見解の優位という隠れた特質に関する研究であり、これについては日本カント協会からの要請に応じて招待講演を行い、しかるべく議論を進めた。もう一つは、ニーチェ研究である。ニーチェは、カントに批判的ながら、カント的視点をある仕方で継承している。そして、ニーチェの場合には、特に、生物学的視点を基礎に置く自然学優位の考え方が顕著に認められる。当該年度においては、これらの点についても研究を進めるとともに、オックスフォード大学からの依頼により、ロックに関するある著作の批評も行った(この件については、The Journal of Theological Studies, 70 (2019), pp. 465-466 を参照されたい)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
デカルト研究という当初の計画以上に、カントやニーチェの批判的検討にまで、研究を進めることができた。それらはいずれも、形而上学的知見が自然学的知見を支えにしていたことを示す方向にあり、これによって、今後の研究の方向付けがいっそう明確になった。また、海外からの依頼に応えて、しかるべき専門書の書評を書くという点で、国際的貢献も果たすことができた。 なお、以上の研究の具体的成果を示すものとして、「図書」の欄に記載した『カント批判』および『デカルト入門講義』のほか、The Journal of Theological Studies 誌からの依頼により行った下記の review を参照されたい。 Yasuhiko Tomida, 'John Locke: The Philosopher as Christian Virtuoso . By Victor Nuovo. Pp. 263. Oxford: Oxford University Press, 2017. ISBN978 0 19 880055 2. Hardback; e-book n.p.', The Journal of Theological Studies, 70 (2019), pp. 465-466 (https://academic.oup.com/jts/advance-article-abstract/doi/10.1093/jts/fly150/5238859).
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