研究課題/領域番号 |
18K00039
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
冨田 恭彦 京都大学, 人間・環境学研究科, 名誉教授 (30155569)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 観念論 / 観念説 / 観念 / 物そのもの / デカルト / ロック / バークリ |
研究実績の概要 |
本年度の第一の課題は、バークリの「観念論」(物質否定論)の見直しである。バークリは、ロック的な自然主義的観念説の「物そのもの」、「観念」、「心」からなる三項関係的枠組みの中から、「観念」の視点からしたとき「物そのもの」は知られないとして「物そのもの」を消去する。バークリの『原理』等に見られるこの観念論の論理が、どのようにしてデカルトやロックの原型的観念説の論理を歪めて成立するかを、バークリの後期の思想をも射程に入れながら再検討することが、主として本年度前半で試みられた。 デカルトが近代的な意味における「観念」を、形而上学の重要概念として導入したとき、その「観念」の論理自体が、形而上学が基礎づけるべき自らの「自然学」的営みの中で形成されていったことは、明らかである。この論理は、自然学的理由から心の外に新たな物体を措定することに基づき、それとの関係において、私たちが日常外にある物の性質とみなしている直接知覚されているものをすべて心の中のなにか、すなわち「観念」として、位置づけ直すことによる。つまり、「観念」は、先に新たな外なる物体(ないしロック的に言えば「物そのもの」)が措定されることと連動して導入された概念であって、それには物そのものの措定が先行している。デカルトによって形成され、ロックによって受け継がれたこうした観念説の基本的枠組みを正しく理解していれば、バークリのように、観念が直接の対象となる限り物の存在は確認できないとする説も、今日まで続く、それに追随する西洋近代観念説解釈も、本来ありえなかったはずである。 本年度前半の研究は、主としてこの点を再確認するものであった。 本年度はさらに、これまでの研究成果を公にしてそれに対する批判的応答を求めるため、英文による中間報告文献の作成に注力した。また、関係する重要文献が広く読まれるようにするため、その翻訳も開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、上記の「研究実績の概要」にあるとおり、バークリの観念論の論理の基本的問題点を再確認することが課題であった。本年度の研究で、この課題に十全に応えることができたことに加えて、これまで、基本的研究と並行して行ってきたカントやニーチェの思想との論理的関係の検討においても、今年度はさらに知見を深めることができた。こうして、デカルトからカントに至る、観念説ないし表象説の見直しを進める上で、より広範かつ明確な道筋が得られたことは、残る2年度の研究をいっそう加速するものと思われる。以上の理由から、「当初の計画以上に進展している」と評価するものである。
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今後の研究の推進方策 |
課題の遂行が順調に進んでいるので、残る2年度で当初の課題をすべてクリアする方針である。本研究が、これまで類例のないものであることからして、本研究の終了に先立って、極力多様な形でその内容を公にし、関係諸氏の批判的応答を求めるよう努めたい。幸い、本年9月には、その一部がある学会で取り上げられることになっており、そうした機会を捉えて、よりよい方向で研究を完遂するよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を英文で中間報告し、批判的コメントを得ることによって最終的な研究成果をよりよいものにする予定であり、並行してその準備を進めてきたが、公表のための手段が短期で決まらず、そのために要する費用の有無に未定の部分が生じ、その部分を次年度に持ち越すことになった。公表が決まり次第、そのための予算をすぐに執行する予定である。また、次年度のもともとの予算については、計画どおり執行する予定である。
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