研究課題/領域番号 |
18K00039
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
冨田 恭彦 京都大学, 人間・環境学研究科, 名誉教授 (30155569)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒューム / バークリ / カント / デカルト / ロック / 観念 / 観念説 / 自然主義 |
研究実績の概要 |
本年度の第一の課題は、ヒュームの観念説がどのような仕方でデカルトやロックの原型的観念説の論理を歪めたかを明らかにすることである。もともと西洋近代の観念説は、復活した原子論(粒子仮説)の論理を基盤として成立したもので、実在する「物そのもの」が仮説的に想定され、それとの対比において心の中に「観念」があるとされ、例えば、従来、物の性質とされてきた色や味などは、物そのものによって感官が刺激されることによって心の中に引き起こされる「内的なもの」として、観念に数えられることとなった。これに対して、すでにバークリは、心の直接の対象が観念であること等々の理由で、外にあるとされる物質ないし物そのものを否定し、「物質否定論」を唱えていたが、ヒュームは物そのものや物質の実在を否定するわけではないものの、それらに対して懐疑的な態度をとり、のちのカントの「物自体」を不可知とする考え方の先駆けとなる、懐疑論的な考え方を提示した。本年度は、これを確認することに注力した。 また、この研究と並行して、カントがどのような意味で、ヒュームの『論考』や『研究』に見られる経験論的な基本的視座を誤解し、その誤解を自らの超越論的観念論の立場の基盤の一つとしたか、また、カントの純粋知性概念(カテゴリー)の選択が、どのような意味で、自身の自然科学的見解に基づいていたかについても、改めてこれを確認する作業を進めた。バークリやヒュームにおいて、観念説が当初持っていた自然科学との不可避のつながりが希薄化したのとは対照的に、カントにおいては、デカルトやロックとは別の仕方で、自身の自然科学の考え方が『純粋理性批判』の枠組みを支えていたことが、これによって明らかとなった。つまり、カントは、のちのフッサールやクワインが言う「自然主義」の立場を表面的には拒否しながら、実際にはその立場で議論を進めていたことが、明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、本年度はヒュームの懐疑論的観念説の論理の再検討を進めることになっていた。実際には、これを検討することはもとより、その前後に位置する、バークリとカントの考え方を再考することができ、バークリやカントに関する研究成果の一部を、専門誌で論じることができた。その意味で、本年度の研究は、予想以上の範囲で成果を上げ、そのため、「当初の計画以上に進展している」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
課題の遂行が順調に進んでいるため、予定通り、最終年度(令和4年度)でカントの観念説(表象説)の論理を再検討し、それによって、全課題の目標を高い水準でクリアできると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の一部をオープンアクセスで公表するための費用(Article Processing Charge)が必要となり、そのための手続きが年度が変わってからになることから、助成金の一部を「次年度使用」とした。APCの支払いは、令和4年度に、速やかに行われることになっている。
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