今年度は引き続き古代医学・哲学関連のテキストの多角的な分析を行い、その研究成果は主に以下の3点にまとめられる。 (1)コロナ禍のため延期となっていた日本西洋古典学会が2021年6月に開催され、シンポジウムコメンテーターとして、古代オリンピックにおける「身体」や「女性」をテーマに報告した(Cf.2022年3月発行の『西洋古典学研究』69)。オリンピック競技者たちの目指すべき身体状態とそれに関する技術の内実の問題は、常に医術知および哲学知の側からの価値の議論と切り離すことができず、時代とともに幾度も再考されてきたことを、ヒッポクラテス、プラトン、ガレノス、ピロストラトスの具体的なテキストをあげながら考察した。また、古来、多様性が認められずに排除されてきた人々、すなわち女性や障がい者などマイノリティの参画の問題についても扱った。 また、(2)古代の医学哲学研究を国内外で行ってきた研究者たちによるオンライン研究会を、2022 年 3 月 3 -4日に行った。近藤智彦氏(北海道大学)の呼びかけにより、「ギリシア・ローマ・アラビアにおける医学と哲学のつながり」というテーマで、安田将氏(北海道大学) 、土屋睦廣氏(日本大学)、矢口直英氏(東京大学)、福島正幸氏(エディンバラ大学) 、渡邉真代氏(ボローニャ大学) とともに研究発表を行った(Zoomでの参加者60-80名ほど)。古代世界の各分野の充実した研究発表及び質疑応答を通して、医学哲学の歴史を幅広い視野に立って見直すことができた。 さらに(3)京都大学「西洋古典学連携共同研究会」の報告会に参加し、古代ギリシアにおける「夢」について検討した。古代ギリシアの医学と夢の関係についての研究成果は、2022年度の日本西洋古典学会でのフォーラムにて発表予定である。
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