研究課題/領域番号 |
18K00049
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
塚本 晴二朗 日本大学, 法学部, 教授 (90217282)
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研究分担者 |
笹田 佳宏 日本大学, 法学部, 准教授 (00804361)
茨木 正治 東京情報大学, 総合情報学部, 教授 (10247463)
眞嶋 俊造 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (50447059)
上村 崇 福山平成大学, 福祉健康学部, 教授 (50712361)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 極化現象 / 記事内容分析 / ネット書き込み分析 / 正しい議論 / 正しい罵り合い / ユニコーンモデル |
研究実績の概要 |
まず実証的な方法に関しては、本年度も極化現象の成立過程をメディア・ネットの内容分析等で明らかにするため、平昌五輪開催期間の韓国関係報道に注目したものの分析を継続した。2018年度までの分析においては、韓国に対する好意的な感情と非好意的な感情が、時期によって、大きく上下していることが判明した。これは他のどの国に対しても見られない動きだった。そこで、ナショナリズムが刺激されやすいオリンピックが、韓国で開催され、なおかつ北朝鮮との問題が絡んで、日韓の多様な感情が表面化する可能性が考えられる、平昌五輪開催期間に注目した。本年度は特に、新聞・放送・雑誌の分析に加えて、ネットへの書き込みの分析も加えた。当初想定していたように、新聞・放送の事実報道が、雑誌に取り上げられることによって、議論となり、ネットの書き込みによって増幅され、そのことがまた、新聞・放送の事実報道によって認識されることにより、極化が進んでいく、という図式は、まだ見出されてはいない。ネットの書き込みの分析に一工夫が必要と思われる。一方、倫理学的な方法に関しては、「正しい議論」とは何か、という本研究の尺度となる部分の検討が進んできた。具体的には「ユニコーンモデル」を研究手法して援用し、逆説的に、「正しい罵り合い」は存在し得るのかを中心に分析を行った。「正しい罵り合い」は、罵り合いが行われる公共空間に参加する全てのステークホルダーが罵り合いに参加することについて積極的に関与し、参加についての合意または同意が存在する場合に成立しうる。しかし、そのような「正しい罵り合い」が現実の世界において成立するのは非常に限られた場合になる。サイバー掲示板では条件次第で「正しい罵り合い」が成立する可能性がありえるが、出版物、新聞、テレビでは成立しないように思われる。こうした考察の後に、今後は「正しい議論」の尺度へと結びつけていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度第1回研究会は、2019年4月3日に行った。4月21日の応用哲学会第11回年次研究大会のワークショップ「『極化』現象のメカニズムの解明と『ポスト・トゥルース』時代の倫理学の役割」に向けての打ち合わせであったが、新聞・放送・雑誌・ネットの書き込みの分析結果について、当初の想定とやや違っている点も含めて、確認した。 4月21日の応用哲学会第11回年次研究大会では、ワークショップという性格上、当初の想定と違っている点などをそのまま発表して、ネットの書き込み分析に、貴重なアドバイスを受けることができた。その後の打ち合わせで、倫理学的な方法に関しては、「正しい議論」を浮き彫りにするための「正しい罵り合い」のアプローチが確認された。 7月12日の第2回研究会では、マス・メディアが議題設定はしているが、その論調とは何の相関もなく、ネットの書き込みは極化していること、ただしマス・メディアの論調の変化とネットの書き込みとは相関が見られる。ということが確認された。 8月10日の第3回研究会では、メディアとネットの書き込み分析、「正しい議論」の考察に加えて、正しい議論のためにジャーナリズムは何ができるかと、正しい議論のために教育は何ができるか、という部分を加えて、成果物を編著として刊行することに決まった。 2020年1月10日の第4回研究会では、成果物の目次を検討し、今後はこの目次の分担に従って、研究を進めることとした。 3月16日の第5回研究会においては、各分担の進行状況の確認とともに、成果物刊行後、2020年11月21・22日開催の日本法政学会において、「議論と民主主義」というようなテーマで、シンポジウムを行う方向で進めることを決定し、今後の目標とした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の研究のペース・メーカーとして、成果物の刊行と、日本法政学会のシンポジウムを二本柱とした。成果物の内容は、第5回の研究会にて、以下のように目次とその解説のような形にしてみた。第1章「正しい罵り合い」は、議論の仕方を根本的に考察する。議論というよりも罵り合いといった方が適当であるようなものになってしまいかねない、現在のネット上の論争であっても、議論が民主主義の原則であるのならば、否定してしまうわけにはいかない。そこで正しい意見のやりとりとはどのようなものなのかを、本書の最初に確認することとした。第2章「ポスト・トゥルース時代の議論の実態-平昌五輪『イチゴ問題』を中心として-」は、平昌五輪のカーリング中継を発端として、ついには農林水産省が韓国のイチゴについて見解を述べるに至ったプロセスを追い、単なるスポーツ中継の中から意図されなかった争点が浮かび上がってくる中での問題点抽出を試みた。第3章「ポスト・トゥルース時代の議論の構造」は、第2章の事例を踏まえて、これまでの研究で把握していた極化現象と議論との関係を見直し、議論や意見対立が起こっていくモデルの提示を試みた。第4章「望ましい議論に向けて-ジャーナリストがすべきこと-」は、第1章で示された正しい議論の仕方と、第2章・第3章で示されたポスト・トゥルース時代の議論モデルとの溝を争点を伝える側としてのジャーナリストが、どのように埋めていくのかを考察する。第5章「望ましい議論に向けて-教育ですべきこと-」は、第4章と同様のことを争点を議論しあう側の社会の成員への教育で、どのように埋めていくのかを考察する。 日本法政学会のシンポジウムについては、仮のタイトルを「議論と民主主義」とし成果物の内容を前提として、倫理学・法学・政治学の各視点からテーマについて論じ合う形を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は特に、新聞・放送・雑誌の分析に加えて、ネットへの書き込みの分析も加えた。当初想定していたように、新聞・放送の事実報道が、雑誌に取り上げられることによって、議論となり、ネットの書き込みによって増幅され、そのことがまた、新聞・放送の事実報道によって認識されることにより、極化が進んでいく、という図式は、まだ見出されてはいない。ネットの書き込みの分析に一工夫が必要と思われ、その結果女子カーリング競技に関する書き込みに注目すべき点があった。この点をもう少し深く分析するためには、準備を整えた上で、かなりの人数を要する追加の分析作業が必要になると思われる。よって、追加のメディアの報道及びネットの書き込み分析のための予算を残した。 作業自体は、これまでのものと大きな違いはない。
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