コロナ禍によって、なかなか計画通りに研究が進まなかったが、今年度授業の担当のなかった前学期の時期を利用してドイツ・カールスルーエ工科大学(KIT)・TAシステム分析研究所(ITAS)に滞在し、図書館や研究室を使わせていただき、資料の閲覧や収集を行いつつ、ITASの組織などについても学んだ。その中で、ITASで研究している日本人とも交流を持ち、日本における技術評価に関わって意見交換した。また、所長のグルンヴァルト教授の勧めもあり、ITAS内の哲学系の研究グループに参加し交流させてもらったり、7月にカールスルーエで開催された5th ETAC(第5回ヨーロッパTA会議)に参加させてもらったりした。日本でTAの制度化やそれに関する哲学の貢献を考える上で非常に参考になると同時に、コロナ禍といった非常事態におけるTAの意義や課題について考えるいい経験になった。TAに関わってヨーロッパを中心に最先端の研究をしている人たちと交流を持てたことも有意義であった。 この研究滞在を前後して、オンラインで開催された応用哲学会において「バリューセンシティブなデザインと責任ある研究・イノベーションについて」と題した研究発表を行い、VSDが技術哲学においてどのような意義を持っているのかを明らかにし、それが日本でも推進されているRRIの概念とどのように結びつくのかを検討し、さらにそれに関連する形で「バリューセンシティブなデザインとは何か―VSDと技術哲学」と題した研究論文を発表した。ここでは、日本であまり詳細に扱われてこなかったVSDに焦点を絞って考察し、技術評価の哲学との関連でその可能性や課題について明らかにした。 以上のように、技術評価の哲学というこれまで日本になかった研究分野を新たに構築する上で、その意義や課題を明らかにするとともに、今後具体的に展開していく方向性を示すことができた。
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