研究課題/領域番号 |
18K00053
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
藪 敏裕 岩手大学, 教育学部, 教授 (20220212)
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研究分担者 |
劉 海宇 岩手大学, 平泉文化研究センター, 教授 (70649441)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 『安徽大学藏戦国竹簡』 / 『清華大学蔵戦国竹簡』 / 『上海博物館蔵戦国楚竹書』 / 『郭店楚墓竹簡』 / 『毛詩』 / 『毛序』 / 『毛傳』 |
研究実績の概要 |
『詩』はその成立以降いかなる展開をへて『詩経』として成立してくるのであろうか。近年進展している赤塚忠・松本雅明・白川靜・家井眞等による宗敎学的・民俗学的な立場に立つ『詩』原義の究明の成果と、従来の『毛序』などによる政治的倫理的な『詩経』解釈との乖離を目の當たりにした時、この問題が解決されるべきテーマとして浮上してこよう。しかし、従来は、経学的價値観に立った諸文献の『詩』『詩経』の成立に関する記述のすべてを事實と誤認して、孔子の系譜に『詩経』を位置づけようと言う言説が優勢で、『詩』の成立の実情は十分に明らかにされているとは言いがたい。 『詩』の成立と展開という問題は、やはり『詩』そのものの検討から始められなければならない。ただ、『詩』そのものの検討する際には、『毛傳』『毛序』の古文系の詩解釈を自明のものとすることなく、また三家詩の詩解釈が孔子・子夏等から傳承されているという先入観を打破し、かつ近年出土している楚簡等の詩解釈を參照しながら行われる必要があり、困難な課題である 本研究は、近年出土する戦国期の同時代資料である楚簡が引用する『詩』の解釈について、古文系とされる『毛詩』のテキスト及び『毛傳』『毛序』の解釈が先秦から存在したということを無前提に容認し、これらの『詩』理解に基づいて楚簡・漢簡帛が引用する『詩』を理解する従来の方法を打破することを目的とする。具体的には戦国期の楚簡等に見える楚系文字の『詩』理解、前漢期の『馬王堆漢墓帛書』等に見える「漢代隷書(今文)」期の『詩』理解、古文系『毛詩』(『毛傳』『毛序』等を含む)による『詩』理解、という三つの『詩』理解が別のものであることを明らかにし、且つ楚簡引用の『詩』を当時の実態に即して理解することにより、漢代の『詩経』学の展開を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成31(令和元)年度には、昨年度に復旦大学の劉釗教授の差配で実見した安徽大学所蔵の楚簡が『安徽大学藏戦國竹簡』(以後『安大簡』と呼ぶ。)として出版された。従来から検討していた楚簡に『安大簡』を追加して、これらの楚簡等が引用する詩の解釈の比較検討を進めている。これらの成果としては、今年度は、研究体表者の藪は、『詩経』伐柯篇や“緝熙”について楚簡と『毛序』『毛傳』の解釈の差異について検討した「二宮尊徳の『詩経』伐柯篇解釈」「従楚竹書《緇衣》篇看《毛詩》“緝熙”的訓詁」等の論文を発表した。また、研究分担者の劉海宇氏は、金文と『詩経』の用字の違いについて検討した「西周金文「執駒」及『詩経』相関内容考述」や戦国文字の用字について検討した「説北方諸系戦国文字中一類特殊写法的「貲」字及相関諸字」等の論文を発表した。 三家詩や『毛詩』それぞれに一義的に確定した詩説の傳承があったものと假定し、現在まとまった形で残る毛詩系統について、その傳承系統が秦漢の諸文献中に確認できるかどうかについていくつかの詩篇について検討した。その結果、現状では毛詩系統の詩説の傳承が無いことを確認した。これは毛家系統の詩説の流布が事實でなかったことを證明するばかりでなく、三家詩系統の詩説の傳承の存在をも疑わせるものである。漢代の『詩』が當時の人々にどのように認識されていたのか、『詩』はその成立以降いかなる展開をへて、『詩経』として成立するのかという問題を考察するには、近年陸続として出土する戦國期から漢代にかけての楚簡等を視野にいれつつ、漢代の詩の引用例の大半を占めるいわゆる「断章取義」的な詩の引用の検討を今後も続けていくことが不可欠であることを確認しつつ、今年はさらに別の詩篇についても検討していく。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に楚簡の読解を進めるにあたって、現在購入済みの『清華簡』『上博楚簡』『馬王堆漢墓帛書』についてはそれを 使用するが、現在未購入で、今後刊行が予定されている『清華簡』及び『上博楚簡』の続巻等については、設備備品費に計上している経費により購入し検討する。 これらの研究成果については、コロナウイルスの終息如何にもよるが、9月に復旦大学出土文献與古文字研究中心において劉釗教授・陳劍教授・施謝捷教授・廣瀬薫雄准教授等と協力しシンポジウムを開催することにより公開する。コロナが収束しない場合は、学会誌等に投稿することにより公開していく。 近年研究が進展する楚系文字についての辞書や研究書については、設備備品費計上している経費により購入する。二年間の研究成果をもとに『安大簡』が引用する『詩』と『毛詩』の違いについて明らかにするとともに、総括を行うこととする。
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