研究課題/領域番号 |
18K00055
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
志田 泰盛 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (60587591)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 音声の永遠性 / プラカラナパンチカー / 音源定位 / 眼光線 |
研究実績の概要 |
昨年に引き続き、第18回国際サンスクリット学会が急遽再び順延されたため、2021年度は学会での口頭発表や学術論文としての成果の公開には至らなかったが、感染症問題下でも共同研究を加速させるため、まず、本研究費により学外向けのApacheサーバー用情報コンセントを配線した。また、上記学会で発表予定の内容を進展させるべく、関連資料である『シュローカ・ヴァールティカ』の校訂作業に多くのエフォート率を割き、とりわけ、『ジャイミニ・スートラ』の音声論題のうち、音声の場所に関する場所を主題とする1.1.15に対する複註部分に焦点を当てた。 当該箇所の主題は、唯一なるものの場所の理解が観察地点や観察者に依存するという点であり、太陽を譬喩基準とした議論や、鏡像の視覚理論などが論じられるが、以下のようにテキスト伝承の混乱も推測される。 『シュローカ・ヴァールティカ』の詩節をしばしば引用する仏教文献『真理綱要』は、一般的には『シュローカ・ヴァールティカ』を引用する際、多少の改変を加えたり、あるいはその増稿版と推定される散逸文献『ブリハット・ティーカー』の詩節と思しき引用があるが、逆に、『シュローカ・ヴァールティカ』の内容を縮約するケースは少ない。しかし、本研究の主題である音声論題については、縮約的引用や引用の脱落が確認された。1.1.15の複註の引用についても、引用元の議論の主構造を支える重要詩節にもかかわらず、『真理綱要』による大型引用から脱落しており、伝承の混乱を示唆する。 以上のように、他の章と比べても、対照すべき資料が相対的に限定される音声論題については、写本の伝承の分析が最重視されるべきと考え、利用可能な16種の写本と2種の刊本の全数調査にこだわり、時間をかけて精査した。これらの成果の一部は、上記の国際サンスクリット学会の他、2022年の日本印度学仏教学会等で発表すべく応募中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
校訂研究の最大のボトムネックである一時資料の校合については、有効性が期待値の高い写本のみに絞る方法が主流といえるが、本研究では並行文献等の資料状況に鑑みて全数調査を維持している。1つ写本が増えると、校合すべきペアは、多角形の角が一つ増えした時に増える対角線の数に相当するため、校合写本の増加に応じて指数関数的に比較すべき項目は増え、また、異読情報の記入には高度な組版技術も要請される。 主研究対象である『プラカラナ・パンチカー』については、9本の古写本、1本の転写ノート、3本の刊本については、各資料の性格や相互の関係が明らかになってきたため、校合の方法論も安定し、校訂速度は上がってきたが、一方で、議論内容を比較対照すべき文献である『シュローカ・ヴァールッティカ』についても写本校訂の必要性が明らかになり、その16種の写本と2種の刊本の校合についての方法論を確立するための試行錯誤に相当の時間を費やしたことが、当初の計画からの遅れの主要因であると分析する。
|
今後の研究の推進方策 |
国際学会の度重なる順延の中で、より広範な一時資料を網羅的に調査する方向へと研究方針を変更している。 これにより、主研究対象である『プラカラナ・パンチカー』だけでなく『シュローカ・ヴァールティカ』についても、それぞれ10本以上の古写本の全数調査により、実証確度を高めている。 これらの成果はの一部は、第18回国際サンスクリット学会の他、2022年の日本印度学仏教学会等で発表すべく応募中である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主要因としては、当初2021年1月に参加予定であった第18回国際サンスクリット学会(The 18th World Sanskrit Conference)が、2年続けて順延されたことであり、その参加旅費の見積額も不明なため、旅費が高騰した場合など、様々な状況に柔軟に対応できるよう、本研究費にはなるべく手をつけずに繰り越したためである。
|